音声と琵琶のそれぞれに骨太で力強い表現がからまった琵琶の演奏がすばらしかった。
琵琶の歴史をものがたりとしてやさしく解説しながら、それぞれの琵琶の特徴がよくわかる一流の演者の演奏が4つ、というぜいたくな構成だ。
10分ほど遅刻したので解説の最初の部分は聞けなかった。それでも雅楽琵琶が民間の琵琶法師によって一般に広まっていったこと、邦楽の主流を三味線に奪われてからも三味線への影響はもちろん三味線の奏法などが琵琶に逆輸入されたことはよくわかった
九州の琵琶法師は独自の活動をしたため三味線などの芸能活動を徳川幕府から禁止されてしまったため、琵琶の技法が発達したという経緯がある。九州で琵琶がさかんな理由だ。技法のポイントは、琵琶でいかにメロディを弾くかということにある。
盲僧琵琶 「荒神経」 演奏:城戸清賢 演奏時間:約10分
琵琶はお経の伴奏として使われる。リズムをつけることが中心で、弦を叩くだけという音はシンプルで素朴だ。
平家琵琶 「宇治川」 演奏:今井勉 演奏時間:約25分
琵琶で伴奏もするが、表情豊かな語りの間奏という形で琵琶そのものも聞かせる形になっている。リズム中心だが、音そのものを楽しめる。宇治川の先陣争いの話についての語りはゆったりとしているが、装飾的な詞章とあいまってズシリと腹にこたえる。
薩摩琵琶 「小督」 演奏:須田誠舟 演奏時間:約25分
高倉天皇の寵愛を受けたために平清盛に憎まれる小督は嵯峨野に身を隠す。高倉天皇は源仲国に小督を捜しに行かせる。高崎正風の詞が魅力的だ。「あらなつかしの我君やと、御文顔に当て給ひ、しばし言葉も涙の雨に、晴れたる月も曇るらむ」というようなセリフが胸に強く響いて突き動かされる。
たわむ大きな撥で撥そのものも音を発する。音色も豊かになる。伴奏も間奏も、メロディを弾けるようになった技法の発展で、リズムとメロディの自在の混交によって圧倒的に豊かになった。語りは変幻自在で迫力だ。
筑前琵琶 「那須与一」 演奏:中村旭園 演奏時間:約15分
琵琶演奏のリズムとメロディの自在の混交は薩摩琵琶と同じだが、その音は三味線に近い軽く弾むような音だ。はじく、たたくなどの多彩な演奏そのものが楽しい。
語りの言葉は明瞭だが、聴いているとき意味を考えることはない。意味以上に響いてきて、体全体でそのまま受け取り、体ごともって行かれる。
きょうの公演は1ステージだけ。邦楽関係者・愛好家で超満員だった。