初演に比べて、安心して観ていられる。東京公演を経て、成熟してきているのがわかる。
ただ、レベルが上がったら上がったで欲が出てきて、気になるところはそれなりにある。そこを集中的に書いておきたいが、いいところは初演の感想(近々アップ予定)に述べているので、そちらも併せて見ていただきたい。
恋人に裏切られて自殺し、天国の入り口まで来たニイナに、天国の入り口の住人が5つの芝居を見せる。
この世への思い残しのある人々の芝居を観て、ニイナは生きる力を取り戻す。
5つの芝居は、それぞれ25分のラジオドラマを元にしているから、ボリュームはたっぷりだ。ニイナへのアプローチのためにやや理屈っぽいところはあるが、いろんな愛の形を描いて飽きさせない。
音楽は、20曲以上もの曲想の違うナンバーで楽しませてくれる。歌詞とあいまって、歌のなかでドラマが進行するような試みもなされている。
俳優は、安定しており、中堅がずいぶん個性的になった。巡演などでの経験が生きているのだろう。
そのように、オリジナルのミュージカルとしてきちんと作り上げられていることを評価しながらも、あえて気になったところを上げることとする。
脚本は、「LOVE」の、くどいくらいの連呼と、その解説が少し気になる。わかりやすさは必要だが、説明しすぎかなという気がしないでもない。むしろ、簡潔なセリフのほうが伝わる場合もあるだろう。
放送劇だったことの影響が残っているのかもしれないが、もう少しことばを刈り込んで、動き中心にしてもいい。
演出は、押さえるべきところをキッチリ押さえ、踏み込むべきところに踏み込んではいるが、引っぱりすぎてやや情緒に流れるのが気になる。
脚本と協働して、踏みとどまって屹立する、踏みとどまって別の視点から強調する、壊して相対化することでもう一歩踏み込む、など、情緒に流れているところを力に変えられたらいい。
演技は、俳優自らの感動が、表に顕われ過ぎているのが気になった。
もちろん、俳優自身が感動していることは必要だろう。しかし、俳優が酔っていれば、熱演には見えるかもしれないが、表現はむしろ弱まる。自分の感動を客観的に見られる冷静さが身につけば、さらによくなるだろう。
ダンスは、振り付けがいかにもミュージカル調で、ありきたりの動きばかりでけっこう古くさい。コンテンポラリーダンスなどの動きを取り入れれば、苦しみの表現などもっと幅を広げられる。
群舞がうまく決まらないのも残念だった。
「夏の記憶」で、干上がったダムの底に現れた故郷から、女が思い出の品を掘り出し、そのなかに写真まであるというシーン。10年間湖底にあった写真が見られる状態のはずはないだろうに。まさかそんな?と思ったが、男はそれをいっこうに驚かない。そんな小さなことがリアルさを殺してしまう。
そこで男は、女が幽霊だと気づいてもよかったのではないか。
この舞台は、きょう2ステージ。少し空席があった。