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《2011.4月−7》

手前勝手な設定に、ウンザリ
【アンタガタドコサ〜Self-portrait IDENTITY〜 (グレコローマンスタイル)】

作・演出:山下晶とグレコローマンスタイル ドラマドクター:岩崎正裕
16日(土) 14:05〜16:00 ぽんプラザホール 2,000円


 ウンザリするほど手前味噌のご都合主義の脚本だ。
 「自分確立」がテーマというが、40歳にもなってオタオタしている優柔不断な男のつまらない思いを、作者の自己顕示欲丸出しで押し付けられたんじゃ、それはたまらない。
 ほんとに、ドラマドクターは何をしているんだ、という舞台だった。

 九州大学の物理学の准教授の主人公、政治家秘書をしている幼馴染から、熊本県知事選への出馬を要請されるのだが・・・。

 この舞台での、次のような理解に苦しむ状況設定の、その手前勝手さにウンザリする。

 ○知事候補は、有力者の秘書の力なんぞでは決まらない
  有力者の2世候補ならともかく、いわくがあって熊本に住んでもいない元知事の娘婿を知事候補にするわけはないだろう。フィクションとはいえ、リアリティがなさ過ぎる。
 ○出産直前に病院は変えない
  出産する場所は、普通行きつけの産婦人科で、産婦の実母の近くというのが常識だろう。それを覆して、産婦の実母と相談もせずに熊本で出産する動機が乏しく、説得力は非常に乏しい。
 ○主人公は何をしたいのか
  知事などとても務まるはずもないことぐらいすぐわかりそうだから、断ればいいだけの話だし、なぜ熊本で出産するかは説明すればいい話。
  なのにこの主人公はほんとに優柔不断だが、何ということはない、ただのめんどくさがりなだけ。そのめんどくささが引き起こすことが劇的だと、作者は勘違いしている。

 そのような何もないところであいまいなままに引き伸ばすような男の話を、肥後もっこすに引っ掛けて語られたら、肥後もっこすが怒り出すだろう。
 肥後もっこすは、さっさと判断して行動する。そのことをなかなか変えようとしない頑固さが、肥後もっこすの特徴なんだから。

 作者の変な自己顕示欲も、この舞台をおかしくしている。
 産婦人科病院の待合室の壁に高く、院長がチャップリンの格好をした写真がかかっている。その写真の存在そのものがおかしい。
 作者が演じる院長はその写真を見て、チャンプリンを賛美する言葉を吐く。作者は自分を役と重ねすぎだろ。そんな個人的な思い込みの吐露は迷惑だ。

 役の名前が、現衆議院議員や前知事と似た名前だったのも気になった。フィクションならフィクションで徹底すべきで、実際をどこかにおわせるようなやり方には違和感がある。
 NTTの福岡移転の話などのエピソードも、単純で浅すぎる。取材などせずに、思い込みで書いているのがみえみえだ。

 とにかく、熊本と熊本人を表現していない。
 熊本の特徴は、一旦中に入ってしまえばものすごく気持ちのいいという、その閉鎖性だ。それが肥後もっこすの頑固さにも通じる。
 そんな熊本と熊本人を描けてないから、熊本と熊本人を揶揄しているように見える。まともな熊本人がこの舞台を観たら、あきれてしまうだろう。熊本で上演して反応を見てみればいい。

 この舞台は、14日から19日まで7ステージ。少し空席があった。


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