リアルで瑞々しい舞台の存在感に圧倒されるが、しかしこれはファンタジーだ。だから、どうしようもなくいとおしいのだ。
在日韓国人家族の、1970年の大阪万博前後の2年間を切り取った物語。
子どもたちの愛憎と結婚。そして、不法占拠とされて韓国人街から退去するまでを描く。
焼肉屋「ドラゴン」の再婚夫婦と家族と、そこに集まる人びと。
劣悪な生活環境。貧困。差別。そんなきびしい生活を必死に生きる人たち。その喜怒哀楽を絡ませ交錯させながら、何とか幸せをたぐり寄せようともがく人たちを、暗くなることなくおおらかに描く。
トラブルはあっても、生々しくはならない。悪人は出てこない。一人息子の自殺を除けば、悲劇は起こらない。
そう、途中で幽霊となってしまった一人息子の目を通して見るから、この町がユートピアに見え、全編がファンタジーになる。
群像劇だ。登場する人物はていねいに描かれていて、それぞれの切ない願いはビシビシ伝わってくる。
長女と次女の、同じ男をめぐる話。末娘の妻ある男との恋。これらはみごとにやさしさのオブラートで包まれる。
まわりに翻弄されながらも、古木のようなたたずまいで動じない父と、直情的だが楽天的な母は、グイと踏ん張って耐える。
ふたりの話では、1970年からさらに30年も遡って、太平洋戦争から朝鮮戦争の時代をどのように生きたかが語られる。日韓の悲しい関係に翻弄されたきびしい人生が見えてくる。
この舞台の時代から40年が経った現在から見てみると、登場した人たちの今が想像できて、何とも言えない切ない気持ちになる。
特に、北朝鮮に帰国した長女夫婦のその後の過酷な運命。帰国こそが「宿命」という言葉が使われるが、個人ではどうにもならない政治体制を「宿命」として受け容れなければならない残酷さを思うと、胸が塞がる思いがする。
脚本も演出も演技も、リアルでありながらユーモアもあって、どこかゆったりとしたリリシズムを感じさせる。セリフのなかに世界の名作戯曲のセリフをさりげなく紛れ込ませるという遊びもある。
久々にドンときた、観られたことがうれしくてしかたがないという舞台だった。
この舞台は北九州ではきのうときょうで2ステージ。今回の再演の大千秋楽を観た。ほぼ満席だった。