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《2012.2月−1》

質の高い見応えのある舞台
【お伽草紙/戯曲 (うりんこ)】

作:永山智行 演出:三浦基
4日(土) 14:05〜15:25 ぽんプラザホール 3,000円


 永山智行の秀逸な脚本と三浦基の剛毅な演出とうりんこの俳優陣の抑えた演技が融合していて、質の高い見応えのある舞台だった。

 太宰治の「お伽草紙」を構成する4つのお伽話「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ」「舌切雀」。 その原作の4つのお伽話を永山智行がうまく1本の戯曲にしている。
 戦時中、空襲を避けて防空壕に非難した家族が「お伽草紙」を読むという設定で、その家族の話と4つのお伽話が絡みながら並行して展開していく。それぞれのお伽話が単独で劇化されることの多い原作を、このような形にまとめあげた戯曲の構成がすばらしい。
 はじめに出てくる「舌切雀」では、おじいさんを演じる父の雀への思いに母が嫉妬するが、それはラスト近くの母(=「舌切雀」のおばあさん)の宝物取りに繋がる。他の話もこれと同じように、うまく取り込まれて再構成されている。
 お伽話の中にある不条理に、理不尽な戦争の渦中にある家族は、敏感に反応する。家族の面々(を演じる俳優)がお伽話の登場人物(動物)を演じることで、太宰治の諧謔は肉体化されて現実と切り結ぶ。お伽話と家族の抱えた課題とが呼応して、重なり合って入れ混じり深い層で共振する。
 このようにして、太宰の作品世界が生々しく立ち上がってくる。

 三浦基の演出は、そのような戯曲の特徴をていねいに引き出して定着している。戯曲の大きな構造をキッチリと押えて、そのための仕掛けに加えて効果のあるアイディアを過不足なく盛り込んでいる。
 移動できる大きな岩に生竹が刺されたのが竹林。そのうしろに竹細工のザルが組み合わされた壁があって深い森がイメージされ、そこから白狐の面をかぶった俳優たちが登場すると、深い森の暗闇は得体の知れない戦争の暗闇と重なる。ラスト、ザルの壁は前に倒れて、そこにあるはずの防空壕に覆いかぶさる。

 俳優の演技は、安心して見てはおられる。
 ただ、全体的に手堅すぎてやや重く感じられた。そのために原作に籠められたユーモアが伝わりにくい。重くやるところと軽くやるところのメリハリがあれば、舞台はもっと弾むだろう。

 この舞台は、きのうからあすまで4ステージ。舞台を広く取って客席数を減らしていたにも関わらず、かなり空席があった。


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