最強の一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT」は、昨年と運営形態が変わって、今年は九州地域発の「INDEPENDENT:FUK」として地域主体となった結果、上演作品の質が低下してしまった。
【Bブロック】
○「Comfortable hole bye.」 [出演:野中双葉(劇団ノコリジルモ)]×[脚本・演出:熊谷茉衣子(劇団ノコリジルモ)](from福岡)
楽しんで死にたいという女―「自殺」ではないというが、そのあたりが何とも不鮮明で、つまらない言葉遊びなどで時間稼ぎして突っ込まないから、状況は一向に際立たない。
ローランドゴリラの言葉から、「苦労のない穴」と「死」を捉え、苦労してこその「生」だというところにムリヤリ持っていくのだが、堀下げが浅くてそれだけではどうしようもない。発想も表現も甘くて、つまらない舞台だった。上演時間25分強。
○「スパイラルベイビーのおと」 [出演:守田慎之介(演劇関係いすと校舎)]×[脚本・演出:平林拓也(ユニット成長剤)](from行橋)
舞台に3つのイスがあって、登場する3人の男を1人で演じる。1人目は妻の病状快癒のために人を笑わせる男。2人目は友人の保証人になって借金を背負った男。3人目が女友だちとしゃべっただけで妻から離婚された男。開演15分後に、1人目の男の笑わそうとする動作に2人目、3人目が反応することでやっと3人が繋がるが、2人目、3人目の男は1人目の男の幻想だった、というオチ。
終わってしまえばそういうことだったのかということはわかっても、全体的にはグドグドしていて観ていていらつく。もっとクリアさがほしい。上演時間20分強。
○「暗くなるまで待てない!」 [出演:横田江美(A級MissingLink)]×[脚本・演出:土橋淳志(A級MissingLink)](from大阪)
盲目の預言者少女として稼ぐために教団幹部の母から目の手術を拒否されて、ほんとに盲目になってしまった女占い師。刑務所から出てきた元教団関係者の男がつぶれた教団を再興しようと、女占い師に教団の隠し資金のありかを明かすように迫る。女占い師は、DVの義理の父親を殺した男の子を自室にかくまう。
状況設定がみごとで、ギリギリ生きている女占い師に、1つのよいこと(男の子をかくまうこと)と1つの悪いこと(元教団関係者の男からの脅迫)をうまく絡める。エピソードが過不足なく散りばめられていて、クッキリとした印象を結ぶ。オカルチックだが人の心の機微を表したラストは、ほっこりとした気持ちになる。的確な演技も心地よい質の高い舞台だった。招待2作品の1本で、上演時間約30分。
【Aブロック】
○「従営獣」 [出演:井口誠司]×[脚本・演出:仲島広隆](from福岡)
主人公はフリーター。前半はバイト先のコールセンターで好きになった女の子の話で、後半はそこをやめさせられてからのお店や配送センターでのバイトの話。自意識過剰な男のそんな話がほとんど脈絡もなく、動きの速い大げさな身振りでダラダラと繰り広げられる。
セリフも動きもよけいなことが多すぎる。広げるだけ広げた話にドラマはなく、統一感に乏しい。脱ドラマを狙った? だったら別の工夫が必要。このままではただ雑駁で空疎なだけだ。上演時間30分。
○「みぞれ」 [出演・脚本・演出:山田美智子](from鹿児島)
カキ氷のみぞれしか売らない店の店主と店に入りびたりの小学生の女の子の話に、後半、店主の姉が訪ねてきて、店主のことが少しだけわかってくる。といっても、何とも中途半端な関係がトロトロと開陳されるだけで、何の展開もなくおもしろみは少ない。上演時間25分強。
○「いまさらキスシーン」 [出演:玉置玲央(柿喰う客)]×[脚本・演出:中屋敷法仁(柿喰う客)](from東京)
観始めてから一度観たことがあることに気づいた。昨年の東京・大阪からの4作品の1つだが、それほど印象は強くなかったとみえる。
女子高生が高校生活3年間に、受験、恋愛、部活を全部十分にやろうとして、虻蜂取らずになってしまう話。猛スピードで脈絡なく展開していくように見えるが、エピソード間の連携はある。ただそこにあまり深入りしない。玉置玲央の身体能力でグイグイ引っぱっていく疾走感が楽しめる。上演時間30分弱。
昨年の「ジャパンツアーin福岡」は、セレクトされた東京・大阪からの4作品と、九州予選(出場6作品)を勝ち抜いた2作品が上演されて、見応えがあった。
今年の「INDEPENDENT:FUK」は、地域から選ばれた4作品と東京・大阪からの招待2作品の上演で、地域から選ばれた4作品は予選もなく書類選考だけで決められたようだから、作品の質が落ちるのは当然だろう。東京・大阪からの招待2作品のうちの1作品が昨年に上演されたものだというのも、配慮に欠けた。
この舞台はきのうときょうで各ブロック2ステージ。Bブロック−Aブロックの順で観た。少し空席があった。