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《2013.3月−7》

亀井忠雄師の大鼓をを堪能した
【坂口信男独立四十周年記念 坂口松諷会 (坂口松諷会)】

構成:坂口松諷会
24日(日)14:00〜17:30 大濠公園能楽堂 無料


 それを聴くために行った亀井忠雄師の大鼓は、気迫に満ちていて打ち込みの音のキレが抜群で、間の取り方に緩急があり、掛声はねっちりと謡にからむ。これまで聴いたことがない独特の迫力があった。

 「坂口松諷会」は、能楽師・坂口信男・貴信父子のお稽古会(素人会)で、今回の公演は「坂口信男独立四十周年記念」と銘打たれている。
 素人会なので入場料は無料だが、人間国宝の葛野流大鼓方・亀井忠雄師、観世宗家の観世清和師など豪華な出演者だ。
 会は午前9時半開始だが、亀井忠雄師の大鼓を目当てに、師が打たれる後半を観た。

 亀井忠雄師が打たれたのは、番囃子「正尊」、居囃子「隅田川」、舞囃子「恋重荷」、能「卒塔婆小町」の4曲。いずれも、小鼓は幸流の飯田清一師。

○番囃子「正尊 起請文」
 番囃子は、囃子と謡のみで演ぜられる演能形式で、ワキの謡を坂口貴信師がつとめる。
 亀井忠雄師の大鼓の打ち方は、手を大きく上げないで手元で力を入れるように見えて、必ずしもスマートではない。だが、その音は強くて微妙に変化して多彩に聞こえる。坂口貴信師の謡がスッキリとしていて聴かせる。上演時間25分。

○居囃子「隅田川」
 居囃子は舞がない分、謡と囃子を集中して聞かれる。地頭が角寛次朗師。
 葛野流と、わたしが習っている高安流では、化粧調の扱いがかなり違う。そんなところを気にしながら見ていた。上演時間15分弱。

○舞囃子「恋重荷」
 地元の重鎮の能楽師を中心にした5人による地謡と、太鼓も入った囃子が何とも心地よくて、はじめから終わりまでうつらうつらしてしまった。上演時間15分。

○能「卒塔婆小町 一度之次第」
 8人の地謡の能楽師が実にぜいたくな顔ぶれで、地頭が観世清和師。上演時間1時間30分。
 冒頭15分ほどの大鼓と小鼓の静かな掛け合いで、物乞いに零落して漂白する100歳の小野小町の寂寥へといざなう。
 ワキの僧(森常好師)が登場してひとしきり謡い、ものすごくゆっくりと登場したシテが、卒塔婆についての僧との問答をし、小町と名乗る。シテが深草少将の装束に着替えて、深草少将の怨霊に憑依されて少将の思いを語る。シテは田辺裕子さんで、じっくりと演じて破綻はない。素人でこれだけの曲のシテを演じる大変さが伝わってくる。
 亀井忠雄師の大鼓は、1曲を構成する小段によって異なる謡の曲相を徹底的に強調する。打ち込みの音が曲相に合わせてかなり変化して聞こえる。掛声は打ち込みの音よりももっと変化が大きく、謡を引っぱり謡にからんで謡を強調する。
 そのためか、変調しているというわけではないのに、わたしのような大鼓初心者には手組がなかなかわからない。舞囃子「箱崎」の大鼓を、同じ葛野流で亀井忠雄師の弟子の原岡一之師が打たれて、その手組はかなりわかったのだが。

 そんなふうに、亀井忠雄師の大鼓を目の当たりにしていろいろ感じるところが多かった。
 それにしても発表者は女性ばかりで、男性は独吟の3人の方だけだった。いまやお能は女性が支えているということか。坂口貴信師の妹である坂口翠師の仕舞「笠の段」の動きがすばらしかった。

 この公演はきょう1ステージ。少し空席があった。


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