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《2013.3月−8》

基本押えた心地よいダンス
【baram 033°37'22"N 130°25'31"E (韓国−日本 共同制作プログラム)】

総合演出/演出・振付・脚本:チョン・ヨンドゥ
24日(日)18:00〜20:40 九州大学 大橋キャンパス内 1000円


 インスタレーションと演劇とダンスの組み合わせで、九州大学箱崎キャンパス内でツアー形式で行われた公演は、満開の桜咲くキャンパスの雰囲気も相俟って、楽しめた。

 この公演のために招聘された韓国の振付家・チョン・ヨンドゥが、韓国と福岡を行き来しながら感じたことをベースに、ダンス・演劇・美術・音楽・映像・テキストなどジャンルごとに、日韓のアーティストとコラボレートして創り上げた作品だという。

 旧工学部本館入口に集合した100人ほどの観客は、博物館第一分館に案内され、そこで「baramのためのインスタレーション―葛藤が生まれるところ」を観る。
 そのあと、50周年記念講堂に案内されて、演劇「ワイン、お好きですか?」と、ダンス「baram」を観ることになる。

○インスタレーション「baramのためのインスタレーション―葛藤が生まれるところ」
 実習に使われたかなり大きな工作機械群が展示されている大きな倉庫状の建物の中央付近に、天井から半透明の2枚のスクリーンが、少し間をおいて吊るされている。前方と後方の2ヶ所にプロジェクターが置かれ、異なる映像を映写する。半透明のスクリーンを透過した映像は、互いにもう1つのスクリーンにも投影される。
 内容は、「baram」に出演する7人のダンサーが語る「自分のこと」。内容を変えて2回繰り返され、その2回目の時に各ダンサーが自分の話の映像に合わせてスクリーンの下で短いダンスをする。
 会場の無機的な雰囲気に合わせたさりげなさがよくて、なかなかスマートイントロダクションだ。上映時間は約15分。

○演劇「ワイン、お好きですか?」(作・演出:チョン・ヨンドゥ)
 美和哲三による一人芝居。店をたたむワインバーのオーナーのソムリエがワインについて語る。
 時に観客にワインを飲ませたり観客を舞台に上げてテイスティングさせたりはするが、ダラダラとワインの話が続くだけという舞台で、ドラマ性がほとんどなくて、脚本が脚本になっていない。ラベルを隠したテイスティングで、実はみんな同じ銘柄だった、というところなど、なるほどと思わせるところはあるが、ドラマには繋がらない。
 かろうじてラスト近くに、このワインバーが軍事基地予定地から立ち退いていない最後の1軒だとわかる。爆音のストレスを慰めてきたワインだが、いくらうんちくを傾けたところで爆音に負けてしまう悲哀はわからないこともない。しかしなんせ、よけいなことばかりで肝心のところに切り込まない。
 美和哲三の演技はいかにも新劇という演技でキレに乏しく、だからといって味があるところまでは練り上げられていないので、単調に見えてしまった。この内容で上演時間55分は長すぎる。

○ダンス「baram」(振付:チョン・ヨンドゥ)
 日韓のダンサー7名によるダンス。男性ダンサー2名と女性ダンサー5名は、いずれも若い。
 講堂の広いロビーには、体全体をすっぽりと包む衣装を着て顔だけしか見えない等身大の人物の絵が、7枚飾られている。天井には一列にオブジェが下がっている。細長いロビーを横長に使って踊る。
 はじめの5分強は全員で踊り、そのあと30分近くをソロとペアでチェインしていくように踊り、ラストの5分強をまた全員で踊る。
 シンプルな衣装で、身体とその動きの美しさを強調するような奇をてらわない振付が心地よいダンスだ。ダンサーたちは十分にトレーニングされていて、激しいダンスではないがキチンとメリハリがついたダンスで飽きることはない。
 ソロとペアでのチェインでは、まず1人のダンサーがソロを踊り、そこに次のダンサーが出てきてペアを踊り、はじめのダンサーが退場する。これを繰り返す。同じような振付だがムリとムダのないレベルに練り上げられていて、若いが鍛え上げられたダンサーの個性をうまく引き出しながら、全体の統一感はちゃんとあった。

 この公演はきょうとあすの2公演。100人ほどの観客というのは、予想以上ということらしかった。


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