粗暴な夫を殺害し、血筋を同じくするイングランド女王エリザベスのもとに逃れたスコットランド女王メアリー。そのエリザベスによって幽閉されて19年、メアリーがエリザベス暗殺の陰謀に関係したとして死刑の判決が下されるが……。
シラーの原作戯曲では、メアリーは25歳前後、エリザベスはせいぜい30歳という設定だという。実際にメアリーが死刑執行されたのはメアリー45歳のときで、そのときエリザベスは54歳だった。シラーは、幽閉された19年をなかったことにして、いちばんきれいな時期のメアリーを死刑にすることで、その悲劇を際立たせようとした。
だがこの上演では、史実に近くして幽閉された19年をあったこととしている。メアリー45歳、エリザベス54歳とすれば、メアリーを67歳の栗原小巻が、エリザベスを71歳の樫山文枝が演じても違和感はかなり緩和される。それを狙ってのことだろう。
それにしても、出演者は高齢者が多いが、その弊害は小さくない。
清水紘治69歳、池田勝70歳、森下哲夫66歳、水谷貞雄79歳、上野淑子72歳、長森雅人50歳、赤羽秀之52歳。平均年齢は66歳を超え、50歳前後の長森雅人や赤羽秀之がものすごく若く見える。
これは、栗原小巻を若く見せるための策だろうが、年寄りはどこか同じに見えてしまうところがあり、演技が鈍重になってしまうこともあって、役の個性が十分に表現されているとは言い難い。栗原小巻の引き立て役であればいいから、それでもいいということかもしれないが。それにしても、こんな切れ味の悪い清水紘治の演技を初めて見た。
いつもは栗原小巻がワントップのスター芝居だが、今回は樫山文枝とのツートップで、とにかく2人に徹底的にスポットライトが当たるように作られている。その分、劇的感興は削がれる。
栗原小巻と樫山文枝以外の俳優の演技は、くすんで見える。俳優の技量の問題もあろうが、ツートップ2人の演技を引き立てるために意図的にやられている可能性もある。その結果、それぞれの人物が担っているところがぼやけ、舞台の外で起こっていることまで含めた状況が鮮明には浮かび上がってこない。
わたしのこのようなな意見は、栗原小巻と演劇鑑賞団体との関係を指弾することになり、決して受け容れられることはないだろう。
この舞台は九演連だけで3万5千人以上が観るだろう。東京での公演は5ステージで4千人強の観客だから、演劇鑑賞団体の動員力がわかる。演劇鑑賞団体にとっても新劇の生き残りの大物俳優は目玉だ。
こんな舞台、なつかしいというよりも、どこか物悲しくなってくる。
この舞台は福岡では12日から19日まで8ステージ。ラストの舞台を観た。少し空席があった。