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《2015.5月−12》

戯曲の読み解きが不十分
【創作コンペティション 上演審査 (福岡市文化芸術振興財団)】

作:三島由紀夫 演出:藤原佳奈/舘亜里沙/和田ながら
23日(土)13:05〜18:00 ぽんプラザホール 福岡演劇フェスティバル共通チケット(9,300円)


 上演作品は3本ともに、戯曲の読み解きが不十分で感覚的な演出に流れてしまっていた。
 公開審査ではせっかく著名な演劇人を審査員に迎えていながら、印象批評レベルの議論に終始していた。

 創作コンペティション「一つの戯曲からの創作をとおして語ろう」vol.5 上演審査は、課題戯曲の三島由紀夫 近代能楽集より「葵上」を、書類審査、プレゼン審査を経た3人の演出家が演出する舞台を実際に上演して、最優秀作品賞と観客賞を決める。最優秀作品賞を受賞した演出家は、2016年春に実施される福岡演劇フェスティバルにおいて、自身の作品を創作・上演する権利が与えられる。
 プレゼン審査を通過したのは藤原佳奈(mizhen)、舘亜里沙、和田ながら(したため)の3人の女性演出家。審査員はプレゼン審査と同じく、岡田利規(チェルフィッチュ)、前川知大(イキウメ)、松井周(サンプル)、森山直人(演劇批評家)、山田恵理香(空間再生事業劇団GIGA)、山田真実(ttu/創作コンペティションvol.4最優秀作品賞受賞)。

【上演】

○藤原佳奈(mizhen)
 下手奥の天井から上手手前の床へ白布が垂らしてある。やや上手側奥のイスにギタリストが座っていて演奏する。その白布やギタリストにこだわった結果、俳優の演技がそこに絡め取られて単調になってしまった。ラストで葵が死なないのもわからない。上演時間約35分。

○舘亜里沙
 葵の夢を描いた文学賞受賞作を上演するという入れ子構造の舞台で、作家役でエレクトーン演奏もやる女性の狂言回しで進める。天井から床まで吊るされた幅広の布が効果を出すよりも邪魔でマスクなどの工夫も生きておらず、晦渋な舞台だった。上演時間約35分。

○和田ながら(したため)
 下手手前に葵が横たわっている。上手奥のベンチで、光と看護婦、光と康子が話す。キャピキャピした看護婦のキャラが秀逸。光と康子は向こう向きで背中しか見えないが距離感で気持ちがわかる。光と康子の話は軽い日常会話だが、その話の肝心なところでは葵がそっと2人のほうを見る。変化球で見せた。上演時間40分強。

 プレゼン審査のときから不満だったのは、戯曲の読み解きが十分で字面を感覚的にしか捉えていないことだった。上演審査の3作品ともにそのときの欠点は補正されてはいない。
 三島由紀夫が「葵上」を近代能楽とするにあたって 紫式部−世阿弥−三島 という流れを強く意識していたはずだ。音楽劇である能「葵上」をせりふ劇とするために三島がどんな工夫を凝らしたかはこの戯曲を理解する肝だろう。そこに突っ込まないから戯曲の構成が見えずに、気に入った場面やせりふを勝手に膨らませるという安易な演出になる。
 そんな戯曲の主旨を違えた演出がこの戯曲の魅力を際立たせるはずはなく、戯曲を読んだときの衝撃を超えるような舞台にはならなかった。

【公開審査会】

 創作コンペティションの上演審査の公開審査会を見るのは初めてで、いろいろ感じた不満も含めておもしろかった。審査時間は約2時間20分。
 まず上演作品ごとに各審査員が講評をしたが、個人的にどうおもしろかったかの感想に終始していて審査員らしい的確な批評はなく、全体の審査基準もなければ個々の審査員にも審査の基準がないことが知れた。そのあと各審査員から推す作品を出してもらい、和田ながら4票、舘亜里沙1票、保留(舘or和田)1票となった。

 本来ならば舘亜里沙に1票を入れた審査員が和田ながら受賞をOKすればそれで終わりだし、そうでなくても多数決で和田ながらに決まりました−で済むのに、なぜか議論は続く。
 これ以降の議論は審査というよりも審査員の勉強会という様相を呈して、将来性がどうのとか舞台のスケールがどうのと、どうでもいいところに話は飛んでいく。戯曲の構成とか大きな捉え方についての議論はなく、能「葵上」の話など出てはこない。審査員のなかに細かい突っ込みをウダウダと入れるKYな人がいたりと、審査員の自己演出力とコミュニケーション力が低くて議論はかみ合わない。

 そんな議論があったあとで結局、和田ながらの受賞が決定した。観客賞は藤原佳奈だった。
 上演審査の上演はきのうときょうで2ステージ。公開審査はきょうだけ。満席だった。


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