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《2015.6月−5》

きないさとみの魅力たっぷり
【土佐源氏/雪洞夜話 (Theちゃぶ台)】

作:宮本常一/半村良 演出:鈴木裕子/村上精一
14日(日)14:00〜15:40 天聴の蔵(山鹿) 無料


 「土佐源氏」は きないさとみ の一人芝居で、「雪洞夜話」は きないさとみ と徳富敬隆の二人芝居。2本ともに きないさとみ の魅力たっぷりの舞台だった。

 山鹿の八千代座のそばの「天聴の蔵」は、使われなくなった酒蔵をイベントや展示の場所としていて、白壁の外観が美しい。公演会場の「天聴の蔵」のなかの「大蔵」は、時が積み重なったようなしっとりとした趣がある空間だ。「大蔵」の手前の「中蔵」には きないさとみ のこれまでの活動を振り返るパンフレットや写真などが展示されている。
 まず「雪洞夜話」が上演され、休憩のあと「土佐源氏」が上演される。休憩時間に舞台も客席も90度方向を変える形に変更される。「雪洞夜話」も「土佐源氏」も上演の前後に吉崎真美と結川楓子によってキツネの面をかぶって現代風巫女舞が舞われる。

 開幕、真っ暗な中から鈴の音が聞こえてきて、キツネの面をかぶった2人の巫女姿の舞手がまったく別方向から会場を包むように登場して、舞台奥の2階部分に登って舞い、降りて正面舞台で舞う。
 2人が退場して「雪洞夜話」が始まる。その光を見た人を有り金を置いて立ち去るようにさせるという雪洞(ぼんぼり)の話だ。ひなびた一軒宿の温泉に来た男と女将の会話がほとんどで、30分弱の短い舞台だがばっしりと決まる。
 女将の きないさとみ のセリフ回しは秀逸で、雪洞に超自然的な力を持たせた原作の魅力がていねいに引き出されていて、とてもおもしろい舞台だった。

 そのあとの10分間の休憩時間で舞台と客席の転換がなされていた。「大蔵」を縦長に使っていたのを横長に使うよううにして、筵を敷いた高座台に近い位置から芝居を観られるように工夫している。
 現代風巫女舞のあと、上手から、橋の下に住む80歳の盲の乞食役の きないさとみ が登場してようやっと高座台に上がる。15歳から眼が見えなくなる50歳まで馬喰をしていた男の色ざんげだ。みなしご同然の生まれで、風采は上がらない。騙して牛を売り買いするのが仕事で、定住せず最下層と蔑まれていた。
 妻との結婚話のあと、2人の上流家庭の人妻と関係をもった話が語られる。1人は楮を管理する役人の妻で、もう1人は庄屋のおかた。2人とも夫からは女性としてさほど大事にはされていなかったとはいえハードルは高い。そこを相手の気持ちを揉み解すようにじわじわと距離を縮めていく。その極意は、女のいうとおりに女の喜ぶようにしてやること。

 そのようなやり取りの機微を、情を抑えて比較的理知的に表現していくので、心の動きが手に取るようにわかる。80歳の老爺が妖艶な人妻に一瞬で変化するとドキリとする。ただ、惚れ抜いた人とのセックスの突き上げてくるような悦びの表現は抑え気味だ。
 きないさとみ が初めて「土佐源氏」を演じたのは22歳の時、劇団SCOTの研修生発表会でというから年季が入っている。そのときは白いブラウスにGパン姿で段ボール箱を倒して登場したらしい。今回の上演では、衣装がもっと古びていて茶碗や下駄や筵がもっと汚れていてもよかった。上演時間約55分。

 ほんとに、主演舞台をちゃんと観たいと思い続けてきた きないさとみ の舞台をやっと観ることができた。
 劇団SCOTの舞台で観ている可能性はある。劇団かもねぎショットの舞台で観ている。展示されているパンフレットを見ると、大きな舞台で第一線で活躍されていたことがわかる。
 九州に転居されてからは、2008年の宮崎での「女の平和」で観ているが、その後なかなか観る機会がなかった。今回観られてよかった。
 この舞台は きないさとみ の自主公演で きないさとみ の持ち出しだという。公演はきのうときょうで2ステージ。40席ほどの客席はほぼ満席だった。


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