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《2001.8月−6》

スピードとしつこさの融合
【サダヲ(PA!ZOO!)】

作:あみる 演出:うみのはいね
18日(火) 19:00〜20:40 シアターポケット 1500円


 会話の面白さとテンポで見せる芝居だ。人形劇での状況説明から始まって、観客をぐいぐい引っ張っていく勢いがあり、それは最後まで続く。
 リストラ予備軍として、仕事はないが売上目標だけはあるという新設の職場に異動させられたサダヲと3人の女性を描く。しかし映画「集団左遷」のようなハンディをはね返すサクセスストーリーではなく、右往左往するかれらのジタバタを楽しむような趣向だ。

 登場人物の個性はよく描けている。特に、出入りの販売員も含め女性4人の個性は十分に描き分けられている。いかにもという状況における登場人物の思いをていねいにつむぎだしている。その結果のいきいきとしたセリフが俳優の魅力を引き出すことになった。

 役者は鍛えられていて演技のレベルは高く安心して見ていられる。女優陣は、個性的で元気がよくてしかも切れ味のいい演技だ。丁丁発止のやりとりは迫力があって楽しい。舞台に寒風が吹くような密度の低い芝居が多いなかで、このような俳優の演技を狭い劇場で目と鼻の先で見られるのは至福だ。

 それらを助ける演出の工夫も大きい。導入部の人形劇もそうだが、他にも、会社重役を女性に演じさせるなどの工夫でそのあほらしさを戯画化して描いてみせる。作るほうもそれを楽しんでいるようなところがあるのもいい。
 このように、ねらいは軽い笑いでテーマ性をあえて拒否しているように見えるが、下手なギャグやふざけはなく正面から力で押しまくり、結果として、たくましい庶民の行き様がテーマかと思わせるレベルに達している。思わせぶりなところがないのも気持ちがいい。

 以上のように大いに楽しめたが、あえて言うならばつぎのようなところが気になった。

 まず言えるのは、サダヲ役はちょっとキャラクタが違う。リストラされた他の3人と販売員を演じる女優の開き直ったような軽さに比べ、肝心のサダヲが鈍重と感じるほどまじめな印象が強く、正義派らしさが前面に出ていて跳ばないのが残念だ。努力していると見せない軽さ、軽薄さ、すっとぼけた脳天気さがあれば、ちぐはぐで言うことが矛盾し揺れ動くサダヲを表現し、女優とのからみももっと面白くなったのではないかと思う。

 さらにいえば、いきいきとしたセリフと生きのいい演技で終盤まで持ってきながら、出入りの販売員のおばちゃんに会社を買収されてしまうというやや安易とも思える結末には不満が残る。どう決着するのかと期待していて、ちょっとがっくりという印象は免れない。
 題名が似ているので連想させられるニ兎社の「カズオ」は、父の不倫から一家離散と、どこまでも吹っ飛んでいく展開だった。それに比べると、主人公たちには会社が買収されること以外は何も起こらないし何も変わらない。せっかくここまで来ながら、うまくまとまりすぎて、おとなしすぎる結末であるのが物足りない。
 この芝居はそういう目的の芝居じゃないのかもしれないけれど、そういう方向も取り込んで、さらに幅を広げていってほしいと思う。


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