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《2010.10月−10》

胸を撃つ暗い叙情
【Dialogues in the DARK (Tremolo Angelos)】

演奏:谷本仰 身体表現:大槻オサム
23日(土) 13:15〜14:10 関門海峡ミュージアム・多目的ホール 2本セット3000円


 大槻オサムの身体表現と、谷本仰のバイオリンとのコラボで、「闇」「身体」「光」の3つのパートに分かれる。
 明らかなテーマ性をもって、言葉と身体と音で、納まりをつけずに生々しく表現した。舞台は暗いけれど、力に満ちた暗さだ。見応えがあるステージだった。

 「闇」は、職場の事故で全身やけどを負った男の、生と死の境をさまよい、死の「闇」を覗きこむような独白。
 規則どおりにやったのに起こった男の事故の話は、チェルノブリニの原発事故と二重写しにされ、さらに広島の原爆のイメージと繋がる。
 男が幻視する白いものが、天使か幽霊かというところでは、生と死を行き来する男の心情をみごとに表す。

 「身体」は、「身」の象形文字の起源である「孕んだ女」から、赤子の誕生を通して、「生」の賛歌を謳いあげる。

 「光」は、チェルノブリニの「森」の妖精と、チェルノブリニでコンクリート詰めされた人間(のお面)との会話。
 人はどこに行くのかという、5億年後を見すえての問いかけは、「じゅんぐりと閉じていく」という地球賛歌ともいうべきことと、「再生」が語られる。

 谷本仰のバイオリンは、独自性を主張せずに、大槻オサムの身体表現を助けて多彩にすることに集中している。
 その演奏は、バイオリン演奏の常識的な枠を超えて、打楽器はむろん、管楽器とも聴こえるような音を多彩に繰り出す。
 聴かせどころは衣装替えの時間。ここでは思い切り弾く谷本仰のバイオリンの魅力がよくわかる。

 言葉も身体表現も直裁で朴訥で、その分切れと深みに欠けるところはあるが、強いテーマをやさしい暖かい叙情で包んでいて、その印象は強い。

 開演に遅れて始めの10分ほどを観られなかった。
 この舞台は、海峡演劇祭の一公演で、きょうとあすで3ステージ。50人くらいの客席はほぼ満席だった。


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