よくやっていると見える舞台だが、わたしの趣味にはまったく合わず、苦痛の観劇となった。
変人ばかりが集まる病院。院内一の嫌われ者の大貫は、パコという少女と出会う。パコは事故で両親を失い彼女だけは助かったが、1日しか記憶を保てないという記憶障害になってしまっていた。
作品の質がひどいというわけではないのに、好みの違いなどでまったく合わないという舞台がたまにある。そんな舞台を作る劇団の公演は最初から観ないから、そんな舞台に当たる確率は低いのだが、この舞台はひた演劇祭の通しチケットがあったので観たら、みごとに地雷を踏んでしまった。
とにかく絶望的なまでに退屈で、客席に座っていると閉所恐怖症のような気分に襲われた。途中退席しづらいので長い舞台を最後まで耐えたが、けっこうつらい時間だった。
この公演は、本格的な舞台装置を使い出演者も充実していて、力の入った公演だ。
下手に大きな大きな木がある。メインの病院などのセットは本格的で、吊り物や自前の回り舞台を使っての場面転換はスムーズだ。この小ホールには十分なたっぱがありバトンが設置されていて、それをみごとに使いこなしている。
役の数が多いために出演者が多くて客演も多くなっている。それらの出演者の演技はいちおうは安定している。
そんなふうに、よく頑張って大きな舞台を作っているといえるのだが、わたしには舞台の心がまったく響いてこなかった。
この舞台のオリジナルは、2004年にG2の演出で初演され、2008年にキャストを替えて再演されている。2008年には映画化もされ、舞台のカナメとなるオリジナルの「パコと魔法の絵本」は出版されている。初演も再演も福岡公演があっているが、後藤ひろひと・G2コンビの舞台は好きなのに反応していない。映画も見ていない。
だから新鮮な気持ちで観られるはずなのに、自分ではどうしようもないものすごい拒絶反応が顕れてパニック状態になった。
開幕から、セリフが多くてモッサリしたこの舞台のテンポに合わない。芸達者で安定しているように見える演技もくどくて陳腐にしか感じない。その結果、役に共感できず、結末が容易に想定できることもあって展開に興味が持てない。
モッサリした感じになるのは、オリジナルでの個性的な俳優たちへの当て書きのセリフをこなしきれていないためだ。そのために役の個性も十分に表現できずに、役がうまく絡めない。
演出は俳優の呼吸に合わせすぎていることと結末ありきで、平板で緩急に乏しい。同じような個性の俳優が多いから、さらに平板な印象になる。
上演にあたっては、オリジナルの舞台の映像を見ていないということはないだろう。この舞台はそれをなぞりすぎているのではないだろうか。
ソングラインは地元日田の劇団。この舞台は第2回ひた演劇祭参加作品で、きょうとあすで2ステージ。300席を超える客席がほぼ満員だった。
この舞台の終演後に30分弱、第2回ひた演劇祭初日のアフタートークがあった。
高野桂子プロデューサーが「できちゃった演劇祭」と呼ぶ昨年の発足の経緯がおもしろかったが、ことしは演劇祭としてうまく企画されていて楽しめた。特にチェルフィッチュ「女優の魂」を呼んでくれたことはありがたかった。
パトリア日田の施設をフル活用して、1日で4作品全部を観劇できるというのもよかった。