ダンスで日常生活を描くこのステージは、手数が多くて多彩なのにフレキシブルでファッショナブルでダイナミックで、顔がほころんで笑い声まで発してしまうほど楽しくエキサイトさせてくれるダンス公演だった。
演劇や映像で井手茂太の振付に触れる機会はけっこうあるが、観たい観たいと思っていたイデビアン・クルーの本公演をやっと観られた。
舞台は“家”を象られている。屋根の形と梁の一部と電灯が天井から吊るされ、その下に敷かれた畳30畳ほどが舞台で、そこには和箪笥やソファや卓袱台などが置かれていて、“家族”の話が展開する。
ダンサーは7人で、それぞれが家族のメンバーを演じるが、ガッチリと1対1でキャスティングされているわけではない。区切りとなるところでダンサー全員が卓袱台のまわりなどに集合してそこからリスタートする。すべての場面にリズミカルな音楽が流れていて、それに沿ってダンスは進行する。セミの声などで季節を感じさせるシーンもあるが、明確な時間の流れは薄い。全体の枠組みはそんなふうに、ダンスの自由度を増すためかややラフに設定されている。
アップテンポで勢いがある前半と、じっくりと見せる後半とを対比させる。
前半、大きな動きの多様なフォーメーションがめまぐるしくメリハリたっぷりに展開していく。振付はダンサーを型にはめようとしておらず、ダンサーの繊細で生き生きとした動きを引き出した。それがあるから、後半の家族間の葛藤から来る感情の動きも伝わってくる。
このダンスのもうひとつのおもしろさは、畳の上でのダンスだということ。ダンサーは畳の感触を楽しむように畳と触れ合う。寝そべったり回転したりという低い姿勢のダンスにまったく違和感がなく、その親和性が全体の印象を柔らかいものにしている。
かって、2時間で3分ほどのダンス作品を作るという井手茂太のダンスワークショップに参加したことがある。そんな短い作品においても「いかに観る者を飽きさせないか」という振付の基本を徹底しようとする井手茂太の姿勢を見た。観客を中心に考える「マーケットイン」に徹している。だから井手茂太の振付は楽しいのだ。
この舞台はきのうときょうで2ステージ。満席だった。