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《2014.10月−1》

楽しめる舞台なんだが、少し不満も
【虹をわたって (楽市楽座)】

作・演出:長山現
9日(日)19:10〜20:40 須崎公園野外円形劇場 投げ銭


 すべてを3人だけでこなす楽市楽座のこの舞台は、音楽があふれ演出にも工夫があって楽しめた。

 楽市楽座が家族3人での全国ツアー公演を始めてからことしで5年目。毎年新作を作っての公演なので、ことしの「虹をわたって」は、「鏡池物語」「ツバメ恋歌」「宝の島」「はだかの王様」に続く5作目になる。
 福岡公演は昨年から、会場を放生会の夜店そばから須崎公演に移した。昨年は佐賀で観たので須崎公園で観るのはことしが初めてだが、ザワザワした放生会での上演よりも舞台に集中できていい。
 須崎公演の中央付近の近くに木がある一角にしつらえられた、水に浮いて廻る円形舞台を持った仮設劇場。街灯をうまく照明として取り込み、木々の芝生の緑が美しい。客席は芝生上に60席ほどが作られている。舞台には高く2本のススキ。開演後すぐに十六夜の月が昇ってきた。

 開演前から3人の出演者は楽器を演奏したりしている。夜目に映えるようにと3人の衣装は色彩鮮やかで派手だ。赤い衣装で白塗りの長山現はカニ、グレーと黒の衣装の佐野キリコはカタツムリ、茶色の衣装の萌はネコの役だというのは、舞台が始まってからわかる。中学2年の萌がこの一年間でずいぶん背が伸びていることに驚く。
 オープニングはお決まりの「ダンゴムシのうた」で、そのあと「オネガイのうた」。橋の下で仲よく暮らしているカニとカタツムリの話がひとしきりあって、闖入してきたネコとの確執が少しあって、3匹は家族になる。

 エピソードらしいエピソードもない比較的単純な話だが、歌と所作の工夫で何とか観客を引っぱっていく。
 長山現はギターと三味線、佐野キリコはバイオリンとマンドリンとアコーディオン、萌はバイオリンとパーカッションと、いろんな組み合わせで演奏しながら何曲も歌う。
 長山現が虹色のド派手な衣装のミノムシ役で驚かせたり、渦巻き模様の唐傘を使った佐野キリコのパフォーマンスも楽しい。
 開演して45分ほどしてからゲストコーナー。きょうのゲストは男女のデュオ「525 Stockton」で、エレキギターと鍵盤ハーモニカの演奏で2曲を聴かせてくれた。そのあと、佐野キリコと萌にゲストの2人も加えて舞台上でおでんを食べるおでんタイムとなり、おでんの臭いが客席まで漂ってきた。

 3匹は、虹の下を掘れば“希望”という宝があると信じて、橋の下あたりをシャベルで掘り続ける。その間、カニの戦争体験が語られたり、自称家出ネコが実は捨てネコだったことがわかってきたりする。
 全体としてあまり変化のないストーリーなので、どう決着をつけて終るかと注目していたが、ほとんど肩すかしと言っていい終わり方だった。ネコの話はまだいいとしても、カニとカタツムリについては2匹が唐突に悟って自己満足して終る。舞台上に本水を降らせる演出も、このラストを満足させるものにはしていない。
 2匹のラストでの突然の悟りは、不自由な生活に耐えて“希望”を探しながら生きている普通の人の、その生き様にこそ価値があるという発見によるものだから、そこを自己満足と感じさせないためにもっとためるとか工夫の余地はある。余韻の残し方の工夫もあっていい。
 単調なストーリーを歌や演出で多彩にしようとしてある程度は成功しているが、エピソードを多彩にするとともに、もっと観客の想像力に働きかけてその世界を広げるような構成やセリフの工夫もあってもいい。

 この舞台は福岡ではきのうときょうで2ステージ。ほぼ満席だった。


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