宝生流の初春能は、太宰府天満宮の味酒安則氏による特別講演のあと菅原道真公ゆかりの2演目の能などで、初春らしく華やかで楽しめた。
○特別講演「梅は飛び、松は追った、菅公の御心」講師:味酒安則氏(太宰府天満宮 禰宜)
菅原道真公について約25分間、「飛梅」「老松」に係る話を中心にていねいに説明していただき、さらに「来殿」にも触れていただいたので、とても参考人になった。
○能「老松 紅梅殿」
都の梅津某が筑紫の安楽寺へ参詣する。梅津は木守の老人(前シテ)から道真遺愛の梅松について聞く。その夜の明け方、老松の神(後シテ)と紅梅殿の神が現れて舞を舞い御代の栄えを祈る。
シテは田崎隆三で紅梅殿が宝生和英。1時間40分強と長いが清冽な緊張感があって飽きることはない。後場は、まず朱色の衣装の紅梅殿が舞って白色の衣装の老松が舞うが、紅梅殿が舞は実に艶っぽくて老松が舞は謹厳と対照的だ。ワキの福王和幸が押出しのよさで目立つがそんなワキもありか。
○仕舞4番
「箙」石黒実都、「東北 キリ」久貫弘能、「巻絹 クセ」佐野登、「金札」高橋亘 はいずれも5分ほど。動の石黒実都・静の久貫弘能と女性2人が個性的な舞いを見せた。
○狂言「萩大名」(和泉流)
田舎大名が都の名残にと宮城野の萩が盛りの庭見物に行く。庭の持ち主(亭主)は大の当座(即興の和歌を詠むこと)好きで見物客に所望するので、太郎冠者は大名に和歌のカンニング法を伝授する。
大名:野村万禄、太郎冠者:吉住講、亭主:吉良博靖で、この配役で2度目かな。破綻はないが、軽妙洒脱さに欠けていてどうにも舞台が弾まない。上演時間約25分。
○半能「来殿」
宝生流では「来殿」だが他流は「雷電」と書く。後場が違っていて、「雷電」では菅丞相の怨霊が現れてワキの僧正と対決するが、「来殿」では大富天神の神号を得た道真公が貴人の姿で現れて舞を舞う。きょうの半能ではその後場が上演された。
シテの衣斐正宜が小柄なこともあって印象は子どもっぽいのに面はオヤジとやや違和感があるが、端正な舞いで見せた。上演時間約20分。
この舞台はきょう1ステージ。かなり空席があった。1月なので能舞台と橋掛かりの上方に注連縄が張ってあった。