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《2015.1月−7》

回収できずに空中分解
【現実の冷蔵庫と伝説の剣 (96文字)】

作・演出:川崎和哉
17日(土)15:05〜16:55 ぽんプラザホール プレゼントチケット


 ラストで全体をぶち壊していて、観終っての違和感が半端ない舞台だ。

 引きこもりのユキに会社社長の叔父からゲームのシナリオの仕事が来た。ユキは魔王と闘う剣士の話を書くうちに、自分の引きこもりの原因と向き合い、記憶から消された兄イサムの存在を知ることになる。

 ユキのまわりにいる叔父とその娘2人と祖母らを演じる俳優が、ゲームのシナリオに出てくる剣士を演じて現実の人々とシナリオ上の人々をオーバーラップさせる。叔父の役の俳優が演じる“黄金剣士”は剣士のリーダーで圧倒的に強かったが、魔王側に寝返ってしまい当面の敵になってしまった。
 兄イサムの友だちの登場もあってイサムの死の状況がわかってくる。父母の遺した金を貸してくれとイサムに頼んだが断られた叔父が、イサムを殺してその罪をユキになすりつけたのだった。ゲームのシナリオのなかで剣士たちが力を合わせて“黄金剣士”を倒したら、現実には叔父が死んでしまった。
 演技もテクニカルもちゃんとしていて、何の疑問も感じなければそれなりに楽しめる舞台なんだろうが、終ってみたら違和感だけが残るという舞台になってしまっていた。

 叔父は兄を殺す理由のないユキにどうやって罪をなすりつけたのか。叔父の娘2人と祖母が叔父の殺人をほんとに知らなかったのか。知っていたどうかで彼らの行動の意味はまったく変わる。叔父が倒産してないからユキの父母の遺した金は祖母によって叔父に貸されたということだろう。その金はいまどこにあるのか。祖母が言う「イサム、許してくれ」というのはどういう意味か。
 叔父が死んでしまったラストがほんとにラストになるのか。ゲームのシナリオの仕事が吹っ飛ぶどころの騒ぎではない。真相が世間にばれれてもばれなくても、叔父の会社は倒産して一家離散の危機で、ユキの引きこもりなどどうでもよくなる。
 回収できないところまで話を持っていって、空中分解してしまった。

 この舞台はきょうとあすで3ステージ。ほぼ満席だった。


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