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《2002年03月25日》

野尻敏彦さんの功績を偲ぶ

〜その演出作品を振り返ってみる〜


 テアトルハカタを主宰され、長く福岡の演劇界を引っ張ってきた野尻敏彦さんがこの1月末に亡くなった。そのことは大塚ムネト氏の「超不定期日記」で知った。
 野尻さんに私は面識がなかったが、私の友人の岩坂博氏がテアトルハカタの文芸演出部にいたこともあり、話はいつも聞いていた。野尻さんの演出作品もけっこうたくさん観ている。

 野尻さんの経歴はよくは存じ上げないが、私が芝居を見始めたころに東京にあった「東京小劇場」系統の演劇人と聞いたことがある。「東京小劇場」の作品はいくつか観たことがあるが、中間演劇的な志向のある劇団だったように思う。

 私が初めて観た野尻さんの演出作品は「万歳坑外史」(1983年)である。古門戸町にあった劇団の自前の小さな劇場でだった。
 この作品は私にとって衝撃的だった。それまでの福岡にあったリアリズム系の劇団の演劇とは違う新しさが新鮮だった。中村ジョーさんらの俳優の演技もすばらしく、こんな本格的な俳優が福岡にもいるのか!と思ったのを憶えている。

 それ以後もできる限り観てきたが、私にとって「万歳坑外史」を超える作品には出合わなかった。中間演劇的な志向が私の観劇の性向と合わなかったこともあり、よく観ている割には野尻さんの作品のいい観客とはいえないところがあった。
 その形骸にふれていないため演劇教育家としての野尻さんの実像は知らないが、テアトルハカタ出身の演劇人の現在の活躍を見ればその功績の大きさもわかる。

 奈良屋町に自前の劇場「テアトルハカタ」を持って活動をされていたころが劇団の公演回数、観客動員数ともピークだったのではないだろうか。自前の劇場がなくなってからは活動が停滞したように思える。作品的にも新しいことへの積極的なチャレンジがなくなり、中途半端で食い足りないところがだんだん増えてきたような気がする。
 劇場「テアトルハカタ」では、劇団空間演技の芝居や、入江杏子さんの一人芝居「草文」を観た。劇場事務所で「草文」を演出した観世栄夫さんと話ができて感激した記憶がある。

 中間演劇的な志向については、その影響が大きかっただけに必ずしもいいところばかりではなかったように思う。
 そのような傾向が福岡の演劇を甘い方向に引っ張ってしまったのではないかと考える。関係者の反論を覚悟の上で言わせてもらえれば、ひょっとして福岡演劇における現在の中堅・若手の伸び悩みの遠因がここにあるのではないかという気さえする。

 博多座ができることがわかったときの野尻さんの反応は、「観客を取られる」だったと記憶する。そのあたりがテアトルハカタの持ち味とはいえ、中間演劇に徹するならば、「博多座開場で増えた観客を取り込める」となぜ喜ばれるないかと意外に思った記憶がある。

 私が観た野尻さんの演出作品を、以下にまとめておくこととしたい。

1.万歳坑外史 作:定村忠士 1983年9月 博多・こもんど・4・22
   オリジナル作品で、社会性の強い作品だが、きっちりと仕上がっていた。俳優の演技もすばらしかった。

2.鰤の海 作:佐々木武観 1985年10月 東京:三百人劇場
   終盤の鰤の群がくるまでをうまく盛り上げていた。

3.シーズン 作:中村ブン 1986年5月 東京:中野文化センター
   都会派ミュージカルだが陳腐で、観客から失笑が漏れた。

4.十一ぴきのネコ 作:井上ひさし 1986年8月 テアトルハカタ
   8月18日から31日までと半月近い公演で、テアトルエコーほどではないにしろ楽しめた。田中富士夫さんがよかった。

5.毒薬と老嬢 作:J.ケッセリング 1986年11月 テアトルハカタ
   11月15日から30日までの半月以上の公演だが、戯曲の持ち味は十分表現されていなかった。

6.花咲く港 作:菊田一夫 1987年4月 テアトルハタカ
   よくできていて楽しめた。

7.DEAD END 作:S.キングスレイ 1987年6月 テアトルハタカ
   印象が残っていない。

8.おこんの初恋 作:北條秀司 1987年11月 テアトルハタカ
   楽しめた。上原恵子さんの代表作か。NHKで舞台中継が放送された。

9. 作:井上ひさし 1989年11月 テアトルハタカ
   面白かった。

10.粉雪の村 作:花登筺 1990年1月 テアトルハタカ
   印象がない。

11.人を喰った話  1990年12月 スペースメディアMA
   印象がない。

12.好色五人女 1991年5月 CABINホール
   印象がない。

13.明治の雪 1991年11月 パピヨン24ガスホール
   堤穂瑞さんがよかった。

14.明日の幸せ 1992年1月
   印象がない。

15.ひめゆりの塔 1995年6月 少年文化会館
   印象がない。

16.うたよみざる 作:川村光夫 1996年4月 大博多ホール
   かなり甘ったるい作品という印象だけ残っている。

17.水泥棒 作:真船豊 1996年9月 夢工房
   本田恵子さんの演技に迫力があった。

18.たけくらべ 作:石山浩一郎 1996年10月 少年文化会館
   印象がない。

19.嘆きのサンバ 1997年5月
   印象がない。

20.ピトルギの鈴 作:千葉多喜子 1997年9月 大博多ホール
   思いのこもった作品だが、かなり大きな鈴がぽろりと落ちて人物の関係がわかるなどちょっと不自然なところもあった。


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