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《2003年2月2日》

仕掛けも会話も軽やかな放送劇台本

〜阿久根知昭の放送劇を読む〜


 FM福岡の「土曜ドラマ館」は25分のラジオドラマ番組だが、まだ一度も聴いたことはない。でも番組のホームページ(このサイトからもリンクしている)に公開されているシナリオはときどき覗く。福岡の劇作家・シナリオ作家によるシナリオ集は、どのような作家がどのように活躍しているのかがわかっていい。

 そのなかでも阿久根知昭は、2000年9月に初登場以来放送される作品は年を追うごとに増え、2002年には9本が放送されており、元気がいい。
 昨年暮れ、放送劇を舞台化したいから感想が聞きたいという話があって、放送されたシナリオをプリントアウトしてみたら19本分で1センチの厚さになった。旺盛な創作活動がわかる。

 阿久根知昭のシナリオの特徴は、軽くてテンポのいい会話で読みやすい。ややワープや幽霊が出すぎかなという気はするが、状況設定もなかなかうまい。
 25分番組で、気軽に聴けるような娯楽性を重要視し、あまり重くしないように書かれているが、それなりの感動は要るから、親子や恋人や兄弟の情愛をうまく込めている。ややお涙ちょうだいにもなるが、それはしかたがない。もう少し登場する人物を増やして構成を複雑にしたシナリオもほしいが、25分という制約のなかではそれは無理なのだろうか。

 作品ごとに発表順に見ていく。

「胸いっぱいの初恋を」 (2000.9.23 放送)
 島へ帰る船のなかでの中年男と小学生の初恋の経験談をテンポいい会話で進める。年齢差の大きい少し無理した会話が楽しい。
 小学生は中年男の初恋の相手の子どもだったというオチがわかる最後の一言の切れ味はいい。ふたりが父子の関係になる可能性までを思わせ、読み終えたあとも余韻もたっぷりだ。

「サンダーセブンに花束を」 (2000.11.11 放送)
 ややわびしいヒーローショーの悪役をやっている俳優と、ヒーローのファンの女の子との話。女の子は実は、父母が離婚したため離れて暮らす父に会いに来たのだった。
 ふたりの会話ではそれぞれの心の流れをうまく出している。互いの会話の中に仕込んだ伏線がうまくで効いた手際のいいストーリーメイクで、ホロリさせられる。

「バス通りメモリアル」 (2000.12.23 放送)
 青春時代をすごしそこで結婚した福岡を久々に訪ねた中年夫婦のバスの中での会話。ふたりの愛情表現のために使われる夫が描いた絵の話など、小道具の使い方が効果的。
 実は夫はがんで死んでいて福岡に来たのは遺骨だけ。妻は夫の幽霊と話していたというオチの切れはいい。

「あなたを愛しつづけて」 (2001.3.10 放送)
 調査対象者の女性に惚れてしまった探偵の話。女性に見つかってしまったり、女性に愛の告白をしてしまったりと状況はテンポよく変わる。
 女性には捜している人がいた。その人が探偵だった、というのは強引過ぎてやや納得しにくい。

「あの角まで」 (2001.3.31 放送)
 自分が育った施設のためと思って勤め先の銀行で4000万円を横領した女性の、刑務所からの出所の日の話。ヒッチハイクのトラック運転手との会話で進める。
 運転手は施設が女性を待っていると説得して無理やり施設まで連れて行く。結末は映画「幸福の黄色いハンカチ」の乗りだが、やや作りすぎかなという気はする。

「スッポカしちまった悲しみに」 (2001.5.5 放送)
 オカマが自分の誕生日にバーで会った女との会話。オカマは妹の結婚式に出席すると約束しながらスッポカしたことを気に病んでいる。
 実は女はオカマの妹だった。12年ぶりで超デブから普通になっていてわからなかったのだ。ふたりの想いが強引にあふれて、しみじみとハッピーエンド。

「二十五世紀パラドックスラジオ 前編 & 後編」 (2001.6.9 & 2001.6.16 放送)
 ばかばかしさが際立つタイムワープもの。25世紀のラジオ番組「歴史のそこらへん」という番組で、江戸時代にワープする女性レポーター伴の話。
 前編では赤穂浪士の吉良邸討ち入りを実況中継し、吉良上野介のインタビューまでやる。後編は巌流島の決闘に向かう宮本武蔵をレポーターがやっつけて刀を海に抛ってしまう。2001年に来たレポーターは25世紀に帰ろうとFM福岡のスタジオに行くが、間違って2001年の伴が25世紀にワープしてしまう。
 ばかばかしさが楽しいけど、いちばん楽しんでいるのは作者か。

「記憶消去装置」 (2001.9.1 放送)
 記憶消去装置で記憶消去の商売をしている博士。そこに来た女に頼まれて博士は、試しに記憶を1時間だけ消す。もらってもいない前金10万円を女に返す。
 その繰り返し。――そう女の詐欺。トリックのアイディアがいい。

「遥かなる声」 (2001.10.20 放送)
 一週間後に結婚する女性に、死んだはずの婚約者の親から電話があるという話。婚約者どうしの愛、父への息子の想いがじっくりと語られてホロリ。
 だが、あまりにみな善人であまりに調子いいか、という気はする。

「ある雪の日に」 (2002.1.12 放送)
 売れっ子女流作家のところに訪ねてきた老女、小説の続きで、女性の主人公と別れて暮らしていた母親を遭わせてくれと頼む。そう、老女は実は作家の母親だった。
 作家が好きな甘納豆が母娘確認のキーになっているが、ちょっと無理があるような気がする。

「ウンノ悪いヤツ」 (2002.3.23 放送)
 学校の金を盗んで出所後自殺しようとしていて溺れていた子どもを助けた教師の話。教え子思いだった教師に教え子たちが教師の消息を知って駆けつけて来る。
 ちょっと作りすぎて無理しているかなという感じ。

「21子チャン(にじゅういちこちゃん)」 (2002.5.18 放送)
 タイムワープもの。2002年からタイムマシンで1983年にワープして、貧乏の原因となった父親のタイムマシンの発明の原因となったUFO趣味を除去しようと父の友人に会うが、父のほうが誘ったのだった。
 で、UFOを見た1952年のアダムスキーに会いに行くが、タイムマシンがアダムスキー型だった。――と連環してしまう。アイディアがいい。

「晴れの日の記憶」 (2002.6.22 放送)
 行き倒れのおやじと男の子。おやじは、破産して別れて暮らしていた娘の結婚式に行こうとしていてたことを思い出し、娘の結婚式に駆けつける。が実は、おやじは結婚式直前に死んでいて、幽霊だった。
 父娘の思いはよく描けているが、幽霊を使うのはやや安易かな気もする。

「ミスター・マザー」 (2002.7.20 放送)
 オカマの父親を訪ねる息子の婚約者。化粧が間に合わずはじめは伯父と名乗り、化粧してオカマになる。息子の父親への思いがわかってハッピーエンド。
 オヤジなのにオカマことばが出るアンバランスが放送で聞いたらおもしろかっただろう。結末がさらりとしすぎかなという気はする。

「観光・地獄巡り」 (2002.8.10 放送)
 間違って閻魔のところに来てしまった女性が、手続きが整うまで地獄巡りをする話。バアチャンに会ってややはしゃぎすぎて、灯火の谷の自分の寿命の火を吹き消してしまう。
 観光で本物の地獄巡りという発想が、結末のどんでん返しも含めて、何ともバカバカしくておもしろい。地獄に堕ちたバアチャンのつわものぶりもグー。

「思い綴る風景」 (2002.9.28 放送)
 中年になって挫折した男が、渇水のために現れたダムの底の故郷を訪ねて、好きだった女の子の幻と話し、女の子が祠の下に隠した思い出の品を見つける。
 シンプルな作品だがみずみずしい叙情がある。ただ中学生までさかのぼらなくても、20代の話ではいけないのかと思う。

「ロマンス奇譚(きたん)」 (2002.11.9 放送)
 冴えない男のところに現れた美女の幽霊は、飼っていた猫を助けてくれたお礼を言い、実家にところに届けてくれるよう頼む。そこには双生児の姉がいて、姉の夢に現れた妹の話から男のことを知っていた。
 幽霊との心の通じ合いから姉との恋愛を予感させながら、最後の一言は軽く落としたりとなかなかのセンス。

「スペースマンの秘密」 (200.12.21 放送)
 スペースマンを名乗る喫茶店のマスターが、自分の極道が原因で離ればなれになった娘を捜していると女性新聞記者に話す。記者が知っていた同じような境遇の女性が娘だった。
 スペースマンは伏線ではあるが若干弱い。単純な構成で、どっかで聞いたという感じが強く結末がすぐ想定できるのがちとつらい。

 さて、私個人の好き嫌いを前面に押し出してベストを選ぶと次のようになる。

【好きなベスト5】
  1. 「記憶消去装置」 (2001.9.1 放送)
  2. 「スッポカしちまった悲しみに」 (2001.5.5 放送)
  3. 「胸いっぱいの初恋を」 (2000.9.23 放送)
  4. 「観光・地獄巡り」 (2002.8.10 放送)
  5. 「21子チャン(にじゅういちこちゃん)」 (2002.5.18 放送)
【舞台化するならベスト5】
  1. 「ミスター・マザー」 (2002.7.20 放送)
  2. 「二十五世紀パラドックスラジオ 前編 & 後編」 (2001.6.9 & 2001.6.16 放送)
  3. 「観光・地獄巡り」 (2002.8.10 放送)
  4. 「21子チャン(にじゅういちこちゃん)」 (2002.5.18 放送)
  5. 「スッポカしちまった悲しみに」 (2001.5.5 放送)


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