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《2003年2月17日》

北九州と福岡の棲み分けがますます進むのか

〜(仮称)北九州芸術劇場のオープニングラインアップ《第一弾》が発表された〜


 ことし8月にオープンする北九州芸術劇場のオープニングラインアップ《第一弾》が発表された。
 (仮称)北九州芸術劇場の施設は、自由に使える劇場が都心にあまりない福岡からみるとうらやましいほど充実している。それを生かしきるコンテンツの充実こそが課題かと思うが、あまり短期的にみてもしかたがないのかもしれない。
 それでも、オープニングの演目からみて、劇場がどんな方向に行こうとしているのか、それがどのような効果をもたらすのかを観客の立場からみてみたい。

 (仮称)北九州芸術劇場は、大ホール(約1300席)、中劇場(約700席)、小劇場(約230席)の3つの劇場を持つ。
 演劇専門の劇場としては、東京でいえば、オペラ劇場がある新国立劇場に近い規模だし、世田谷パブリックシアターとシアタートラムを中劇場と小劇場に対応させればそれに大ホールを加えた規模だから、その大きさがわかる。
 場所は、小倉駅から徒歩10分、西小倉駅から徒歩3分とアクセスがいい。

 オープニングラインアップ《第一弾》は次のようになっている。

【大ホール】
 [8月] ミュージカル「阿国」 脚本:鈴木聡 演出:栗山民也 出演:木の実ナナ ほか
 [8月] 「NHK交響楽団演奏会」
 [8月] ミュージカル「ピーターパン」 演出:鈴木裕美
 [9月] 松竹大歌舞伎「四代目 尾上松緑 襲名披露」 出演:尾上松緑、市川團十郎 ほか
 [9月] 「野村万作・萬斎 狂言公演」 出演:野村万作、野村萬斎 ほか
 [2004年1月] 「リチャード三世」 演出:蜷川幸雄 出演:市村正親 ほか

【中劇場】
 [9月] パフォーマンス「月猫えほん音楽会」 演出:吉澤耕一 出演:佐山雅弘 ほか
 [10月] 山海塾「かがみの隠喩の彼方へ―かげみ」 演出・振付・デザイン:天児牛大 出演:天児牛大 ほか
 [10月] 「イッセー尾形 ひとり芝居」 演出:森田雄三 出演:イッセー尾形
 [11月] 北九州芸術劇場プロデュース「大砲の家」 作:泊篤志 演出:内藤祐敬
 [12月] パフォーマンス「兵士の物語」 出演:西村雅彦 演奏:東京都交響楽団
 [12月] ナイロン100℃「10周年記念公演」 作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
 [2004年2月] 公共ホール演劇製作ネットワーク事業「だれか、来る」 作:ヨン・フォッセ 演出:太田省吾
 [2004年3月] 北九州芸術劇場プロデュース「ファウスト」 作:ゲーテ 演出:白井晃

【小劇場】
 [9月] MONO「京都11区」 作・演出:土田英生
 [2004年1月] 青年団プロデュース「夏の砂の上」 作:松田正隆 演出:平田オリザ

 ラインアップを見てみると、特徴的なのは「北九州芸術劇場プロデュース」だろう。内藤祐敬や白井晃を迎えての比較的長期にわたる作品作りが、地元の演劇人に与える影響は大きいだろうと思う。そういう演劇人育成の機能をこの劇場が担っているのがわかる。
 大ホールの出し物の多様さは、多くの観客を集めるためには必要なことなのだろう。作品としては小劇場に大きな特徴がある。土田英生や平田オリザの作品が楽しみだが、商業ベースを無視したこのようなぜいたくな公演は、公共劇場なればこそなのかもしれない。

 そのようなことは、これまで地道に続けてきた北九州演劇祭の実績をもとに、作る側をも見る側をもさらに充実させて大きく飛躍するための「文化創造拠点」づくりの視点からなされている。
 やや大きすぎるかなと思える施設も、劇場が観客を作ることになって観客が増えて、将来は施設が不足するようになることを期待したい。

 福岡の観客として私が困るのは、日本の最先端の演劇の公演が北九州に集中してしまうことだ。かって福岡でも行われていた ナイロン100℃ の公演はこのごろもっぱら北九州でだし、福岡での公演がほとんどない 燐光群 や 青年団 や MONO を観るには北九州まで行かねばならないというのはけっこうつらい。
 観客のみならずそのような舞台に触れにくくなる福岡の若手演劇人もかわいそうだ。さらに、ワークショップの質などでも差がつきそうだし、演劇人の育成の環境においても北九州にますます差をつけられそうだ。

 商業演劇やミュージカルは福岡で、先端的な舞台は北九州で、という棲み分けがますます進みそうだが、決して好ましいことではない。
 そうしないためには、福岡の都心に今よりもっときちんとした劇場がほしい。西鉄ホール(約400席)と ぽんプラザホール(約100席)を補完するような、700席と250席のちゃんとした劇場はどうしてもほしい。その250席の劇場で 燐光群 や 青年団 や MONO や ガジラ を観てみたい。
 福岡も北九州のマネをしろとは言わないが、先端的な演劇においても北九州との連携が可能なレベルまでは整備していくことが必要だと思う。


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