福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ
針穴写真館時代の川原武浩の作品はいくつか観ているが、あまり印象に残っていない。当時の作品は、テーマを表現するためのアイディアではなくて、アイディアだけが羅列されているという作りだったと思う。だから、全体の印象は意外にあいまいだ。そこが作る側のねらい目だったかも知れないが、あまり記憶に残っていない理由だろう。
こんど久しぶりに観て、アイディアはあるが突き抜けないという川原戯曲の特徴は大きく変わっていた。そう、突き抜けていた! ただしその持ち味からして、かっこよくスパーンという具合にはいかない。
クロスワードパズルをめぐる話だ。あ、い、う、え、お、ん、と記号で呼ばれる6人の登場人物たちが、いろいろな組み合わせで、時には対立し時には協働しながら、クロスワードに象徴される現実の回答を探し求める。
現実を踏まえていて荒唐無稽でないのがいい。パズル異なる正解を示唆するなどのアイディアが面白い。表現すべきことは表現しているが難解さが残るのは、やや語りすぎて肝心のところがぼやけたからかなと思わないでもない。
演出も凝っており、個々の場面の密度は高く、印象は強い。狭い空間に濃密な舞台にもかかわらずテンポはいい。笑ってしまうシーンも多い。同じせりふをシチュエーションを変えてやって効果をあげたり、工夫のあとがうかがえる。
また、障子をうまく使っていた装置、美術に加え、照明がいい。
俳優はいい。個性的すぎるくらいだが、やや演技が重い。もっと幅が拡がればなおいいと思う。