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《2001.6月−5》

きっちりちゃんとして楽しい芝居
【秘密の花園 (K2T3)】

作・演出:後藤香
16日(土)14:00 ぽんプラザホール 2000円


 後藤香を代表とするK2T3は福岡で最も生きのいい劇団のひとつであり、その新作はいつも楽しみである。「Kingyo」、「Adolesence」、「沙羅」、「Distance」などを観ている。どの作品もその演劇センスのよさで楽しめたが、発想のよさの割には詰めが甘いところがあって、食い足りないという印象を残す作品も多かった。
 しかしこの「秘密の花園」はそのようなところがなく、俳優のきちんとした演技ともあいまって、親子の情愛、男女の情愛をうまく描ききって、後藤およびK2T3の代表作のみならず、福岡の演劇の水準を引き上げる作品になっている。

 ハリウッド映画で観たかな?と思わせるようなテーマだが、場所は資料室だけ、登場人物は女性5人だけで、死者の気持ちを知りたい生者と、生者に思いを伝えたい死者とを、霊の呼び出しで交錯させることで、テンポよくしかし情感豊かに、生者の思い、死者の思いを描いている。

 亡くなった恋人の霊を呼び出すはずのOL3人のところに、謹厳な女性課長の亡くなった娘の霊がすでに現れていて、娘が自分をうらみながら死んでいったのではないかと思っていた女性課長は娘の気持ちを知り、またその娘を通してOLも亡くなった恋人の気持ちを知るというストーリーだ。

 前半は一見ドタバタ風だが、OL3人(はじめから現れていた課長の娘もあわせ4人)の個性と思いがくっきりしてくるところが実にいい。昼休みを過ぎていて早く霊を呼び出すのを終って職場に戻らなければならないのというOL達の焦燥感を、資料室に吸い寄せられている女性課長が増幅させるところが笑わせる。もう霊は出ないのかと思わせていたやさき、OL3人のはずが4人いたというショックはみごとだ。
 後半は、課長の自分には見えない娘との交流が涙腺を刺激するが、それほどねちねちでなく比較的さらりと表現している。それでも、私の隣の席の女性は左右ともハンカチで、目ではなく鼻と口を押さえていた。感情移入しやすい親子の情愛に観客として入れ込めば、鼻水も出てくる。
 そこまでもっていきながら、軽くユーモラスに終っているところにも後藤らしいセンスが光る。

 この劇団が到達した質の高さは、舞台が無言であるとき緊張感の持続ができていることに現れていると思う。この質の高さをさらに伸ばしていってほしいと思う。


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