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《2001.6月−6》

かぶりものの効用
【天神開拓史 (ギンギラ太陽'S)】

作・演出:大塚ムネト
16日(土)18:00 西鉄ホール 2500円

 ギンギラ太陽'Sは、福岡の劇団随一の観客動員力を誇る人気劇団である。
 今回の公演は西鉄ホールでの9ステージで、全ステージほぼ満員というのは、いかに人気があるかよくわかる。東京でならサンシャイン劇場で8週間というところだろうか。第三舞台の最盛期のような動員力と考えるとそのすごさがわかる。福岡の劇団がかつて経験したことのない1公演での観客数といえる。

 ギンギラ太陽'Sの作品は、プロデュース公演を2作品ほど観ただけで、福博・天神のビル戦争のシリーズは観ていない。ビルをかたどったかぶりものを使い、公演場所も福岡ドームであったりで、その姿勢になじめず観る気にならなかった。しかし、ここまで観客を増やしたのは、それらのシリーズを続けてきた成果ではあろう。
 今回の「天神開拓史」は、今年予定されている再演の第一弾である。

 開幕、満員の観客から拍手が起こる。若い人がほとんどの観客の乗りは最高だ。
 西鉄の草創期にまで遡って、小さな鉄道会社を統合し、ターミナルデパートである岩田屋と共同して天神を発展させようとするところが描かれる。そして、それらの努力が中断される福岡大空襲で終る。
 福岡駅、博多駅をはじめ、西鉄バス、大丸、玉屋、岩田屋、川端商店街など福岡の人にはなじんだものばかりが出てくる。多くの人の思いがこもった建物などを一個の人格に置き換えて表すという試みは面白い。それらがたどった歴史だって若干は知っている。だから何の違和感もなく芝居の世界に入っていける。
 それをとことん利用するのがこの公演の強みだ。

 俳優の演技は観客をうまく巻き込んだ怪獣ショーの乗りだ。生身の人間を隠すかぶりものの効用か、思い切ったせりふのためか、演技ははつらつとしていて破綻や極端な違和感はない。受けねらいかややおおげさになり荒くなるのはやむをえないかとは思うが、もともとここで緻密な演技を求めるのがまちがいだろう。
 それにしても、そのような乗りを支えているのは、作・演出の代表大塚ムネトの尋常ではない福岡への愛情であり、観客はその愛情の発露に共感するのだと思う。

 照明や音響は西鉄ホールの機能をうまく使ってレベルが高く、テンポのよい進行を助け舞台への貢献は高い。当時の状況を簡潔に伝えるスライドの使い方も効果的だ。

 しかし、そのような盛況ぶりと舞台成果を目の当たりにしていても、今回の公演が、地域限定ネタでみんなが知っているイメージに寄りかかった、安易な芝居だという思いも消えない。
 特にこの公演の大きな特徴であるかぶりものには、前述のような効用を認めながらもどうしても抵抗がある。このようなあり方はこれでいいのだろうし、ないものねだりであることは重々承知しながら、何か違うという思いが相変わらず残る。

 ギンギラ太陽'Sは今後、劇団轍等との共同作業もあると聞く。知的なパワーにあふれた別の一面も見せてくれることを期待する。


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