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「悪霊」の印象も生々しいうちに、「悪霊」と同じように濃密過ぎる人間関係が描かれた作品である松尾スズキの「マシーン日記」を観た。
壮絶な男女4人の愛憎劇が繰りひろげられる激しい作品だ。
アキトシ(松尾スズキ)の妻・サチコ(宝生舞)は、アキトシの弟・サチオ(阿部サダヲ)とかって関係を持った。そして今、サチオはアキトシと経営する工場の一室で、鎖に繋がれた生活をしている。
その三角関係のところに、女工・ケイコ(片桐はいり)が就職してくる。ケイコは、サチコの恩師であった。
舞台は巨大なマシーンが鎮座する町工場だ。そこから展開するドラマは、油にまみれた無機質の匂いを持った人間臭さに充ちている。
設定された状況の振幅の大きさはどうだ。人物は、零細工場経営者とはいえ下層の人間だが、鎖で自由を奪われているサチオの状況は人間以下だ。そのサチオに、陰に陽にアキトシの屈折したいじめが加わる。
優柔不断なアキトシと若いサチオの間を揺れ動くサチコ。過去を振り切り女工になるため、機械に近づきそれと同化しようとする鋼鉄の女ケイコ。きれいごとでない現実がややデフォルメされて提示され、救いは見えない。
終幕、たまたま「オズの魔法使い」の格好に似ていたことから、4人で明るくそれを演じるが、希望がないかれらにはほとんどやけくそに見える。
松尾スズキの演技の幅はどうだ。頭の悪い人間の、その理不尽に都合よく変わりつづけるさまを、実に柔軟に演じていた。この柔軟さは、役者として出た野田秀樹作・演出の「パンドラの鐘」でも際立っていた。
片桐はいりの存在感もすさまじい。 シアターガイド誌に「マシーン日記」終演15分後の彼女の写真がある。緊張はまだ残っているが疲れきった役者の顔がそこにある。これだけの作品を演じるとそうなるのだ。終ってすぐロビーに飛び出してきて客にあいさつをするののほうがおかしいのだとわかる写真だ。