初めて見る轟悠の何ともいえない雰囲気に魅了された。
情熱を秘めながら、外見はクールに、しかし斜に構えたというなかなか一筋縄ではいかない男を演じて、男より男らしい。医師・ラヴィックはたぶんこんな人だっただろうと思わせるほど説得力がある。
それにしても、レビュー・パッサージュでも相変わらずクールで男らしいままだ。いくら男役といっても、女性らしい柔らかさや華やかさがあるものだが、演目の関係もあるのだろうが、それが極めて希薄なのだ。
ヒロイン・ジョアンの月影瞳はきれのいい顔立ちだが、演技の切れもいい。ややだみ声で、映画「アニーよ銃を取れ」のベティ・ハットンのような歌い方をする、ものすごく歌のうまい女優はなんという人だろう。
舞台はいつもながらレベルが高く楽しめる。今回は特に装置が抜群で、みごとな舞台転換が効果をあげていた。それでも何かちょっと違うなと思っていたら、その原因は生オーケストラでないことだと気がついた。音楽の迫力が全然違う。
手抜きをしないことはプロとして当然なのかもしれないが、原作はあっても舞台としてはオリジナルであり、練り上げるエネルギーを想像すれば、あたりまえのように観ている宝塚歌劇のパワーがわかる。四季の新作ミュージカルが話題になるが、宝塚歌劇はほとんどが新作だ。
今回のミュージカルとレビューの思い切った組み合わせも面白い。凱旋門は暗い作品だし、パッサージュもパッと明るいレビューではない。こんな組み合わせをあえてやるところが面白い。博多座での宝塚歌劇は、劇場の規模からして恵まれていて、3階席でも十分楽しめるのがいい。