この「青空」は、川畑文子を描いた作品ではあるが、土居裕子のための作品である。全編に彼女の魅力が溢れている。外見上は女優としての資質が抜群とは見えない土居裕子が、諏訪マリーをさえも引き立て役にしてしまうその魅力の源は何だろう。
土居裕子の特徴は、抜群の歌唱力とそれがもたらす圧倒的な存在感だ。
抜群の歌唱力については、情感を強調するのではなく、力でねじ伏せるような骨太な歌い方だ。それでいながら、表現の幅の広さと切れ味のよさも備えている。そのような表現力で、高いレベルの歌唱をごく自然にやってしまうところが、圧倒的な存在感となって迫ってくる。不自然に強調された存在感ではない。説得力のある存在感で、しかも親しみやすい。それは彼女の明るいキャラクタのためだろう。
舞台は、前半のブロードウェイでの成功までの日系人としての苦労と、後半の日本での成功が、主として当時のステージの再現を通して描かれる。
そのステージは、多彩でスピーディ、演出上の工夫もよくなされており楽しめる。趣向をこらした浅草の常盤座の舞台の再現など、当時の雰囲気がよくわかる。ジャズの歌い方が、本場物であることを強調してか、「上海バンスキング」よりダイナミックになっているのも面白い。伴奏は当然生演奏だ。
福岡市民劇場9月例会のこの作品から市民劇場の会員に復帰した。30年以上前に作った「市外Bサークル」に、2年半ぶりにお世話になることになる。