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《2002.3月−1》

増本恵美の演出◎切れ味いい
ハコノナカ 【空想企画TIOPEPEプロデュース】

作:いけうちしん/三浦としまる/村山隆 演出:増本恵美/三浦としまる/村山隆
3日(日) 17:00〜18:30 あじびホール 招待


 ハコ(電車)の中で起こるドラマ4本のオムニバス公演だ。
 全体的にいうと、台本はよく突っ込んでいるが表現はすっきりとしていてレベルは高い。演技は素直で、演出の切れ味もいい。大変楽しんだ。

 あじびホールを横長に使い、幅の広い舞台には電車の車内が作られている。
 そこで20分〜30分の作品が4本上演されるのだが、休憩なしで、暗転して拍手もないまま次の作品に移る。

 「ボム日和。」(作・演出:村山隆)は、爆弾がしかけられたといううわさでガラガラの通勤電車での話。女性2人の芝居で、久美という女性が爆弾をしかけたといううわさを流したのは自分に痴漢する人をつきとめるためだった。もうひとりの倫子が自分の精神安定のために久美をいたぶっていたことがわかり、倫子に襲いかかられた久美は倫子を殺してしまう。
 状況設定がよく、それがダイナミックに変わっていくところをうまく描いているのがいい。

 「にぶい」(作:いけうちしん 演出:増本恵美)は、酔いつぶれた男とそれを送っていく4才年上の女の話。にぶい男は、さりげないところから始まってだんだん直截になる女の愛の告白を、勘違いしてばかりしていて一向に気がつかない。そのすれ違いの面白さで見せる。
 台本もいいが、増本恵美の演出の切れがとてもいい。演技も微妙な心の動きを実にていねいに表現している。4本のなかではいちばん面白かった。

 「気付いてたんでしょ」(作:三浦としまる 演出:増本恵美)は、電車の中に倒れている人への乗客の反応を扱った作品だ。どの車両にも死体があるという設定はシュールだが、個性的な男4人と女2人の乗客の死体とのかかわり方と責任のなすりあいがテンポよく描かれる。
 三浦としまるの台本を、演出はうまくメリハリをつけている。俳優も乗客の個性をうまく演じ分けていていい。

 「行ったり来たり」(作・演出:三浦としまる)は、家出した妻を捜すために電車に乗りつづける男が、やっと妻と会ったところを描く二人芝居だ。妻が仕組んだヒントを男がどうたどって会えたかを話す過程で、ふたりは互いの愛情を確認する。
 じっくりと見せるのはいいが、終幕近くがやや冗長なのが惜しい。愛情を確認したクライマックスのあとの男が失業していたという話や、市営住宅のかれらの家のあかりをいっしょに見る話は蛇足としか思えない。愛を確認するまでにもっと力を注いでくれたほうがいい。

 このグループの芝居作りはオーソドックスで素直で、福岡の劇団の中では最も大きな可能性を秘めていると思う。日本の先端的な舞台の雰囲気を感じさせるものがある。
 このままの勢いでさらにいい作品を作り続けてほしい。


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