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《2002.3月−3》

『らしくない』なぁ
【新・三国志U 孔明編 (松竹・博多座)】

脚本:横内謙介 演出:市川猿之助
8日(金) 16:30〜20:55 博多座 5250円


 スーパー歌舞伎の面白さは、ケレン味溢れる大掛かりな仕掛けだが、それを生かすきちんとしたドラマがあるのが前提になる。この作品は、ドラマが希薄で劇的な緊張が不足しているため、仕掛けだけが空転したり、テンションの低い会話が続いたりと、スーパー歌舞伎らしい盛り上がりに欠けていることに不満が残る。
 もちろん、仕掛けだけでも十分に楽しめはするから損をしたという気にはならないけれど。

 第一幕は主に南方国との話で、恋人の翠蘭と離ればなれになりながら蜀の軍師となった諸葛孔明が、攻めてきた南方国を追って応戦し最後には南方国を味方につける。その戦の帰りに魏軍の立てこもる城を攻めて勝つが、魏軍の勇将・姜維になぜか心魅かれる。
 ものすごい数の出演者のダイナミックな動きがすばらしい。京劇俳優も出演していて、アクロバッティングな動きと、雑技団顔負けの槍使いなど楽しめる。
 この幕は話のテンポも速く、夢中にさせる迫力がある。

 第二幕は魏との戦いの話で、その前哨戦で孔明は軍律違反の出陣をした魏軍の勇将・姜維を助ける。主力戦になって、愛弟子・馬謖が孔明の指示した陣立てに従わなかったために窮地に陥るが、孔明を逃がし天水城に敵をひきつけて討ち死にする関平の働きで落ち延びる。
 天水城の大掛かりな本水の大滝の下での立ち回りは迫力だが、スペクタクルもここまでで、馬謖を切る話、姜維が孔明の家来になる話とやや湿っぽい場面が続く。

 第三幕は、孔明が呉の国王のもとを訪ねて蜀の背後を侵さないと約束をとりつけ魏との戦いに臨み、魏の領内に作った兵糧庫に兵糧と見せかけて火薬を仕掛けて火の海にして魏軍を苦しめる。戦場に、想い続けた恋人の翠蘭の娘・春琴が孔明を訪ねてくる。そこで姜維が翠蘭の息子であったことがわかる。孔明は戦いの途中病で死ぬが、それを隠して蜀軍は無事撤退する。
 見せるのは、兵糧庫が火の海となるシーンと、最後の孔明と翠蘭の宙乗りくらいで、第二幕から低調さは継続したままだ。

 ドラマが弱く、強烈な仕掛けに完全に負けているように見え、その弱さを必死で仕掛けで補おうとしているようにも見える。その弱さの原因は、コンセプトの弱さに加えて、核心となる愛が生身でないからだろう。
 コンセプトの弱さとは、「乱世を終らすという夢の力を信じる」というのがきれいごとに過ぎてうそっぽいことで、それを何度も繰り返されて辟易してくる。
 愛が生身でないというのは、孔明と翠蘭は星を通して心を通わすが、生身の人間がぶつかり合う愛ではないということで、これもきれいごと過ぎてうそっぽく、説得力に乏しい。堅物の孔明を劇化する苦労は察するけれど。

 このチケットを取るために前半の売り出し日の発売開始30分前に博多座に行ったらすでに200人が並んでいた。早い人は前日の夕方から並んでいたらしい。
 目当ての土・日のC席は取れそうもないので、なんとかしようと中洲のローソンに走った。Loppiで調べると8日金曜の夜が空いていたのですぐに取った。これならはじめからLoppiでやれば土・日でも取れたのではないかと悔やまれた。
 博多座に戻ってみると土・日のC席は20分で売切れていた。行列は、発売から25分経っても50人くらいまでしか進んでいない。300人並んでいるとしたら2時間半もかかるのでは余りに非能率だ。新国立劇場のZ席はまずさっと発券してしまい、あと係員が代金と交換するが、60数人並んでいても15分はかからないという手際のよさだ。博多座も、混雑の整理に多くの人をかけるより、発券と代金徴収を分けるなど能率のいいやり方を工夫したらどうだろうか。それが観客サービスにもつながると思う。


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