楽しい舞台である。これが大学演劇だったら大いにほめることになろう。しかしこれだけのメンバーを集めた期待の公演となれば、楽しめるのは楽しめるけれど、ほめてばかりもいられない。
宝くじに当った「家族」の話に、その家族の飼い犬の「犬の世界」が絡んでストーリーは展開する。
どちらも仮想世界であって、二つの世界をそれなりに交錯させた深刻にはならないストーリーと、やや派手な演技や演出を楽しんでおけばそれでいいといえるのかも知れない。
しかし切り込みが弱く、作品全体がこじんまりとまとまり過ぎていることが不満だ。
前回公演の「黒い羽の天使」での秀逸だったアイディアに比べて、今回は核となるアイディアが見当たらない。宝くじに当ったというドラマの出発点からして全く他動的だ。だからといってそれを笑い飛ばすというわけでもなく、それぞれの世界の突っ込みも、二つの世界の交錯も中途半端だ。
宝くじが当ったのは実は300万円で一連のできごとは父の自作自演だったという結末の説得力は弱い。青臭い議論が多く、セリフがそれほど魅力的ではないのも気になる。
楽しませようという気持ちで作られている分それなりには楽しめるが、ここで終わっていてはもったいない。
俳優の演技は魅力的で安定していてそれぞれ個性的で、安心して見ていられる。
演出について気になったのは、観客に対し直接話しかけたり、相手役の顔を見て「近くで見たらすごい顔だな」などと上演途中にしょっちゅう舞台であるとういう現実を観客に意識させるのはいいことだろうか。異化効果をねらうにしてはその必要がないほど舞台の方が軽い。直接観客に向けたパフォーマンス中心の「WAHAHA本舗」系を目指しているわけでもなさそうだし。
日曜の昼の回を観た。ほぼ満席だった。