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《2002.3月−9》

パワー不足●からまわり
【音信不通 (クロックアップサイリックス)】

作・演出:川原武浩
16日(土) 19:30〜20:50 甘棠館Show劇場 1500円


 不満の多い作品だ。前作「住所不定」ほどの不満ではないにしても、川原作品というと前々作「縦横無尽」を基準に考えるから、不満に思うのはしかたがない。

 駄犬「赤犬」の、優秀な闘犬への意欲と挫折の物語だ。エリート犬たちにさんざんいたぶられるというだけのストーリーで、展開らしい展開はない。終幕、闘犬のリングに張り巡らされた縄をかいくぐって「赤犬」は、つなぎとめているリードを引きちぎる。見せ場はここだけだといっていい。
 はじめから終幕があって、そこに集約するために無理にいろいろくっつけたかと思えるほどに構成が弱く、趣向の面白さもコンテンツの広さも深さも不足している。正直、眠かった。

 気になるのは、メインのストーリーを構成するセリフとどうでもいいレベルの駄じゃれが、脈絡なくほとんど無意味に混在していることだ。駄じゃれで引っかきまわすにしろ、本筋にほとんどからまないテンションの低いセリフの多さには白ける。ことばの魅力も薄く陳腐だ。
 もう二歩ほど突っ込んでやや前衛的に、徹底的に抽象的にしたりコラージュとして構成したりなどと新しい表現への挑戦があって、今は成功していなくても大きな可能性を感じさせるのなら評価もしよう。しかし残念ながらそんな試みはなされていない。

 そういう面では近作2本については戯曲の構成も演出も俳優の演技も、そのスタイルがほとんど変わらない。とても発展途上とは思えないバリエーションのなさだ。
 オリジナルに取り組む姿勢は評価するが、俳優はすこし趣を変えて、ぎりぎりまで追い込まれるような作品に取り組んだらどうかという気がする。「審判」の長岡バージョン、上瀧バージョンの交互上演でもやってくれないだろうか。その方がよほど演技の幅が広がりそうだ。

 いろいろ勝手なことを書いたが、川原武浩の才能と今後には大いに期待している。
 30年後「小劇場のイヤな小屋主のジジイ」なんぞになっている川原武浩など見たくもない。「最低でも岸田戯曲賞は取っている!」くらいは言ってほしいと思う。


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