福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2002.3月−15》

何とも不思議☆黒柳徹子の演技
【喜劇キュリー夫人 (青年劇場)】

作:ジャン=ノエル・ファンウィック 演出:飯沢匡
31日(日) 13:30〜16:25 ももちパレス 3100円


 この芝居、戯曲と演出をふくらます黒柳徹子の演技に尽きる。その不可思議としかいえないような軽さ・明るさ・メリハリのある演技で見せる。一瞬たりとも休むことのないような、ことばと体のぽんぽんと弾むような表現が実にいいのだ。一歩間違えば軽薄となるところを押さえるべきところは押さえているが堅苦しいところはなく、楽しさだけが残るという印象だ。
 銀座セゾン劇場等での舞台の成果で、いつのまにか評価の高い舞台女優になってしまった黒柳徹子の演技をこんど初めて見た。期待に違わなかった。

 「喜劇」と銘うたれてはいるが普通の意味での喜劇ではない。いかにも堅苦しそうなキュリー夫人の伝記の上演ではないことを強調した「肩の凝らない芝居ですよ」というくらいに考えればいい。
 人物がやや戯画化されているのと状況もユーモラスな方向に強調され、戯曲の切れ味はいい。舞台の展開は演出の力もあり緩急自在で、キュリー夫人の思いをはじけるように表す。その演出と黒柳徹子の演技がうまくマッチして、生真面目なだけの芝居では表現できないような幅を獲得している。

 黒柳徹子の演技の特徴をどう表現すればいいのだろう。
 それは、相反することを同時に実現させている幅広さと言える。理性的でありながら感情的、単純な表現だが結果は複雑、ちゃらんぽらんに見せながらがっちり、不安定に見えながら安定、ひねくれているかと思えば素直、古そうながら新しい、自由でいながら様式的にも見える、一本調子にみえながら捉えどころがない、さらりとしているようにみえながらデテールもていねい、等々。
 デフォルメして観客の感性に訴えるようにみごとふくらませている。実によく計算されていて押し広げられた表現だ。肩透かし、突っ込み、引き伸ばし、急転直下、押し出し、ゆらぎなどを巧みに使って、人の心にフィットする。これが技術だとすればすごい技術だと思う。

 黒柳徹子は、私が小学生のころ聴いていた、1957年開始のNHKのラジオドラマ「一丁目一番地」ではお姉さん役だった。1954年のデビューだから半世紀近い芸歴なのに、まだまだ発展途上なのはすごい。

 劇団青年劇場については、千賀拓夫、後藤陽吉などの主演クラスはこの30年来ほとんど変わっていない。今回の出演者の平均年齢は60才をはるかに超えているだろう。それはそれでよくやっているといえるが、若手の育成はどうなのなかと気にはなる。
 それでも旧新劇系のこの劇団はまだ勢いがあり、再演も含め年間4本くらいの作品の上演を続け、地方公演にも積極的に取り組んでいるから立派だ。

 福岡市民劇場3月例会の福岡の千秋楽を観た。1ベルで指定席解除だが、なんとかねらっていた席に座れた。満席で補助席も出ていたが、それでも座れない人がいるほどだった。
 見出しに記載している料金3100円は、市民劇場の会費が毎月1800円で年間7公演なので、1本あたりの平均をとっている。この料金でこんな作品が観られるのはうれしいかぎりだ。(ことしの例会予定は、2001年12月の「たいこどんどん」の感想のところに載せているので、興味のある方はみていただきたい。)


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ