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《2002.7月−3》

ふたつの世界が交錯する☆みごとな構成
【コットン (藍色りすと)】

作・演出:太田美穂
6日(土) 15:00〜16:25 ぽんプラザホール 1500円


 藍色りすとの新作「コットン」は、エンターテインメントとしても楽しめるが、人物の思いをうまく描きこんでいて見応えがあった。
 作・演出の太田美穂はふたつの世界を描くのが好きなようだが、この作品はそのふたつの世界をうまく交錯させて成功している。生き生きとしたセリフを俳優も生き生きと演じていた。

 小さな通販会社を経営する主人公・水野には、小説家の彼氏・マキがいる。水野がマキに提供した小説が、もうひとつの世界となって現れる。
 もうひとつの世界では、イズミ(マキを演じる松本芳晃が演じる)が恋人ミズナを描いた絵を完成させると、その絵の持ち主は永遠の命が得られるという。その絵と絵の具をめぐって私立探偵リカコたちと依頼主ナナの攻防を追っていく。
 作者である水野がもうひとつの世界のできごとを眺めると同様に、もうひとつの世界のリカコたちも水野の世界を窺ったりと、平行したふたつの世界に交流はあるのだが、次第にもうひとつの世界が大きくなり、どちらが現実かわからないほどになる。
 そして、イズミ=マキ を介して、ふたつの世界は交錯する。そのことで、ミズナは過去の水野でありその過去への思いがみごとに伝わってくる。この構成はなかなかみごとで、斉藤憐「赤目」を思い出した。

 「永遠の命が得られる絵」について、作者はそれが単なるおとぎ話ではないということを説明してはいるが、ややわかりにくかったりと若干の欠点はあるにしろ、拡がりのある構成とウィットに富んだセリフ(私は大笑いしたがなぜか観客の笑いは少ない)で、生きることのいとおしさを描いている。俳優もよく脚本の内容を形象化している。

 観客を楽しませる仕掛けも多い。
 舞台下手上方に映写される映像は大部分が文字だが、センスよくて楽しい。音楽もテンポいい舞台はこびにうまくマッチしている。
 途中に突然挿入される本編とは関係のない劇中劇はややおバカな設定の短編で、本編とは関係のない役を役者が演じるのも楽しい。

 今回の公演で藍色りすとは人の思いをみつめるやり方を一歩進めたと思った。台本と演技の質をさらに高めることで、さらに本格的な作品に向かってほしいと思う。
 きょうの初日のマチネは70%くらいの入りだった。


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