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《2002.7月−8》

おさまりすぎの▽▲ダリオ・フォ
【払えないの?払わないのよ! (民藝)】

作:ダリオ・フォ 演出:丹野郁弓
19日(金) 18:35〜20:25 ももちパレス 3100円


 まあ楽しめたけれども、原作戯曲の持つ切れ味とパワーがまだ十分には出ていないのではないかと感じた。この作品は渡辺浩子演出を1987年に観ているが、その時に感じた面白さに比べてレベルは落ちている。

 超インフレのイタリアで、店から半分かっぱらうようにして持ってきた品物を、堅物の亭主に見つからないように、さらには家宅捜索の警官の目をかすめるための四苦八苦をテンポよく面白く描く。その亭主は、ひょんなことから化学薬品と偽って外国に横流しされようとしていた食料を手に入れ、それを女房に隠すことに四苦八苦という、夫婦それぞれの対称的な状況をうまく交叉させて笑わせる。
 結局、本音ベースの女房のたくましさに亭主が同調してメデタシメデタシとなる。
 2組の夫婦以外の4人の登場人物(普通の警官、えらい警官、葬儀屋、夫婦のおじ)を大滝秀治が早替わりで演じる。

 1997年にノーベル賞を受けたダリオ・フォ作のこの戯曲は、1974年にミラノで初演され、日本では1985年に劇団民藝が渡辺浩子の演出で上演した。福岡市民劇場ではその舞台が1987年に上演されている。
 極限の状況での庶民の生きざまをユーモアにまぶして、積極的に庶民のエネルギーを謳歌している。テンポのいいセルフ回しの中になまくらとな政治的なセリフがゴツゴツと存在するのは、書かれた時代のせいもあろう。

 期待していた丹野郁弓の演出は、小手先が多くて面白さを十分に引き出しきれていないという印象だ。
 会話のテンポはよく、うまい漫才を聴いているような楽しさがあるが、ぎりぎりのところに切羽詰った人間の哀切さ、開き直った人間のたくましさの表現は不十分だと思う。庶民の身勝手さ、したたかさをもっと強調してもよかった。堅物の亭主が食料品をかっぱらうに至る心の動きの表現は簡単すぎる。テンポをこわさずに表現する変幻自在さがほしい。
 結果、この戯曲のエネルギーの源ともいえるシュールでアナーキステイックなにおいが消えてしまった。翻訳のせいもあろうかやや古臭い語調の基本的なセリフに、受けねらいの「構造改革」、「ニュースステーション」や「渡る世間は鬼ばかり」などの言葉は取ってつけたようでどっちかといえば白けた。

 役者の年齢にはかなりゾッとする。大滝秀治、奈良岡朋子、梅野泰靖は50年以上の芸歴だ。デビューのころから見ている水原英子にしてももう40年近い。切れ味とパワーが弱くなるのはやむを得ないか。

 この作品は、福岡市民劇場の7月例会の3日目に観た。27日までの11ステージだが、後半混む傾向があるとかで、私の観た回はけっこう空席が目立つくらいで、いい席で見られた。


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