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《2002.7月−11》

構想を満たしきれない★もどかしさ
【つくよみ (銀粉胡蝶館)】

作・演出:銀粉胡蝶館
21日(日) 17:10〜18:30 甘棠館Show劇場 1000円


 大きな構想は見えるのだが、その構想を満たしきれていないもどかしさを感じた公演だった。
 砂川道子と峰尾かおりによるユニット銀粉胡蝶館の第1回公演である。壮大な構成とそれを展開する多彩な表現をねらった意欲的な公演であり、精一杯の努力の跡を感じ取ることはできる。しかしまだまだ、その思いの強さと挑戦の意欲を実現するための実力が発揮されていないのかな、と思った。

 大きな構成をねらった作品だ。
 熱い光の神「ヒルメ」と冷たい光の神「ツクヨ」の姉妹神と地の神「ウチモチ」という神の世界と、めしいの「ミヤ」という娘とその姉「ユヤ」の人の世界が平行して描かれる。ふたつの世界は、姉妹の確執という共通のテーマは持つが、交流することはない。
 「ウチモチ」の排泄物を食べさせられたとして「ヒルメ」は「ウチモチ」を殺してしまう。地にもどった「ウチモチ」の死体から植物が生え花が咲き地の世界を満たす。

 2人で多くの役を演じ分け、そのために、上衣を着れば神、脱げば人、というような表現上の工夫はなされていた。
 しかし大きな構成を支えるためのコンテンツが不足していて、構成を満たしきれていない。言葉に魅力が不足していて豊かな情感に乏しい。構成にも表現にももっと具体的な表現にしてそのなかにいくつものレトリックを仕掛けてほしかった。
 すべて自身でやろうとする意欲は買うが、ここは原案だけを示して台本は専門家(が残念ながら福岡にはいないか)に依頼したがよかったと思う。それは演出についても言える。舞台を多彩にするアイディアの質と量が不足している。はしょるところと引き伸ばすところをもっとメリハリをつけてくれればよかった。

 期待していた演技による見せ場に乏しいのがいちばんの不満だ。2人の実力が十分に発揮されていたとは言えない。見せ場である変り身の切れ味もいまひとつで、峰尾の持つ豊かな表現力はほとんど影をひそめてしまっていた。もう一歩踏み込んでもらって、ねらった面白さを見てみたかった。
 台本・演出も併せてやっていることでエネルギーが分散して、演技まで中途半端になってしまったという気がする。構想が大きい作品だけになおさらその傾向があらわれた。そういうこともあって、吉川達也の音楽もどこか戸惑っているように聞こえた。

 この舞台は甘棠館Show劇場で3ステージで、私の観た最終ステージは20人ほどの観客だった。


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