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《2002.8月−5》

ピリリと◇◆◇締まった舞台
【ヴェニスの商人 (グローブ座カンパニー)】

作:W.シェイクスピア 演出:山崎清介
4日(日) 13:00〜15:10 メルパルクホール 2000円


 グローブ座カンパニーの子どものためのシェイクスピア「ヴェニスの商人」は、ピリリと締まった舞台で楽しめた。
 この作品は、7月末で閉鎖した東京グローブ座の最後の上演作品だ。松下電器のおかげで福岡でも上演されて観られるのはうれしいかぎりだ。

 子どものためのシェイクスピアと銘打たれているからといって、いかにも子どもっぽくとか甘ったるくとかにはしていない。セリフが整理され、動きが多くなったような工夫がされているくらいだろうか。セリフの言葉も無理に子どもを意識した作りにはなっていない。
 その表現は堅実で、地味すぎるかと思えるくらいだ。

 男5人、女4人の9人の俳優と、1体の腹話術の人形によって演じられる。当然、ひとりの俳優が複数の役を演じることになる。
 面白いのは、女優・伊沢磨紀がシャイロックとロレンゾーを演じること。シャイロックの娘・ジェシカの、父と恋人を演じることになる。それも衣裳とかつらを変えるだけでみごとに演じ分ける。観客の想像力は少しは要るけれど、そのような演出は観ていて楽しい。この舞台ではシャイロックを善人には描いていないが、敵どうしを同じ俳優が演じることでシャイロックの悪人の印象はずいぶん弱まった。
 9人の俳優はほとんど舞台に出ずっぱりである。というのは、演じている以外の俳優は黒いガウンを着て黒い帽子をかぶると、文字どおり黒子でそこにいないことになってしまうという演出はスマートだ。

 装置は、正面にほぼ正方形の3枚の巨大な石の板があり、いちばん手前の板のうしろから俳優たちは出入りする。道具は他に簡単に動かせるテーブルと椅子くらいで簡潔だ。
 前半ややモタモタしてテンションが落ちかかったところもあったが、法廷シーンの緊張とそのあとの最終幕の開放感をうまく出していて見せた。

 1階に7割くらいの入りだろうか。家族連れが多い。
 観客の中に某情報誌の主筆や某劇場の支配人の姿を見かけたが、それ以外では福岡の演劇人らしい姿は私の知っているかぎりなかった。地元劇団より廉いような入場料でグローブ座カンパニーが観られるというのに、福岡の演劇人はレベルの低い仲間うちの芝居しか観ないと決めてでもいるのか。よけいなお世話かもしれないが、無関心が過ぎるように思う。


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