練り上げられていてみずみずしさに溢れた舞台だ。
ていねいな作りで一見リアルで地味で真っ正直に見えるが、実は周到にいくつものレトリックがしかけられている。その発想のよさで全体的な味わいと面白さを出している。たいへん楽しめた。
過疎の山村を舞台にした青年会コメディーで、下河部村の青年会が村おこしのイベントを仕掛ける話だ。
人物は男5人、女2人の計7人。独身の役場職員、既婚の役場職員(青年会リーダー)、Uターンした本屋とその妻、自然農法農家、ハウス農家、ばついちで実家に戻っている女性、これですべてだ。
イベントの検討から始まり、東京の繁華街でイエイエ節を踊って村をアピールしようとするのだが、それぞれの人物の思いは錯綜する。そして東京への出発を前にばついち女性にふられた独身の役場職員が死ぬ。Uターンした本屋は再上京を考え、ばついち女性は復縁と青年会は崩壊しかかりながらも彼らはイベントに出発する。
ストーリーはあるが、この作品のおもしろさは人物のからみのおもしろさだ。人物のからみがデテールまでていねいに描きこまれていて自然に見えながら、やや個性を誇張された人物が織りなすえぐい状況をえぐいセリフで切り取ってきている。そのえぐさが自然とみせる演技から漏れ出しこぼれることで笑いが起こる。そのような笑いのとり方だ。
セリフはテンポよく繰りだされて状況がクッキリとしてくるライブ感が気持ちいいが、それが笑いの前提となる。
場所は民家を改築した集会所。木のテーブルに木のイスが6つ。正面に障子戸で開けると石垣が見える。その障子戸の右が出入口。すべての場面がここで展開するというのは古臭くも見えるが、しかし場面外で起こったことを場面で行われることを通して実にうまく相互の影響を関連づけ表現する。人物の関係も場面が進むと具体的に変わっていく。
過疎の山村での青年会という設定は、人間関係が密でしかも極端に現れるところとして実にうまいところを選んでいる。現実を踏まえていると見せながら、土田が描く近未来と同じように実は現実離れした世界でもある。見終わったら、これは寓話だったのか、とさえ思う不思議な世界だ。
この作品は1998年に初演されたものの再演で、土田はこの公演について「役者には、笑いを取ることの快感を思い出してもらおう」と言っている。確かに、見栄っ張りとか優柔不断とかという典型的な性格の人物が、典型的な状況で起こることを強調する不自然ではないがやや極端な演技で笑えるからねらいは達成している。
5場で構成されるが、はじめの3場は各25分くらいでじっくりと状況を描く。セリフのつぶやきなどまで使って細部までていねいに書き込まれているが、俳優もうまく読みこなしていて、人物はいかにもその場に生きているように生き生きしている。時間の流れを陶芸教室の作品を並べることでうまく表現するなど小道具の使い方もうまい。
そして、残りの2場は各15分と急展開する。重い仲間の死の原因ははっきりは描かれないがいろいろにおわせてあり、衝撃はあるが違和感は少ない。
ザ・スズナリは久しぶりだが、もう20年も通いなれた劇場だ。以前は自由席で開演時間前に整理券を配る形が多かったが、このごろは指定席か予約番号制が多く早く劇場に行かなくていい分助かる。
当日券で入ったため席は悪く、最前列の左端だったが観にくくはなかった。満席だった。