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《2002.8月−11》

蜷川マジックは☆★☆張子か
【夏の夜の夢 (シアターコクーン)】

作:W.シェイクスピア 訳:小田島雄志 演出:蜷川幸雄
17日(土) 13:00〜15:50 シアターコクーン(東京) 4000円


 蜷川マジックは不発で、この戯曲本来のエネルギーも十分には発揮されておらず、まあ楽しめるけれど蜷川演出にしては不満が多い舞台だ。
 蜷川演出にだんだん迫力がなくなってきたと感じるのは気のせいだろうか。この演出はもともとベニサン・ピットの小空間で作られたもので、大劇場での上演では密度が薄く感じるのもしかたのないことか。

 かなりすっきりと整理されてはいる。
 石庭の上で演じるという仕掛けはいい。加えて、天井から落ちる花や砂、妖精たちの舞台下からの登場などありきたりの演出ではあるが、まあ個々の場面を引き立たせてはいる。しかし全体として高まらずドッとくるものがないのだ。
 最終幕の職人たちの芝居の場面の冗長で面白みのないことはどうだ。エネルギーが全然引き出されていない。役目を終えてテンションが下がってしまった高貴な方たちにだけ対応していて観客まではとどかない。そのために最後の40分はほとんど死んでしまっていて、作品全体のバランスは大きく歪められてしまった。

 惚れ薬を垂らされてのちの2組の男女のバトルを、寝転がれるという白砂の舞台で徹底的に体を使って演らせていたのはおもしろかった。しかし、職人の芝居でその演出者に灰皿を投げさせたりというような楽屋落ちともいえる、蜷川演出ではついぞお目にかかったことのない低次元の演出には、喜ぶよりはさびしくなってしまった。
 大きなコンセプトで成功しているとは思えないし、デテールではねらった笑いがうまく取れていないことからもうまくいっているとは思えず、イリュージョンにまではとうてい至らない。こんなはずじゃなかったんだが。

 舞台の質にはキャストもかなり影響している。白石加代子、宮本裕子、山下裕子と女優はいいのだが、男性俳優が何とも弱い。ライサンダーとディミートリアスの何と似ていることか。軟弱で蜷川演出に耐えて個性を出すレベルにあるとは思えない。職人たちを演じるベテラン俳優も小手先ばかりでいっこうに迫力がない。
 パックには京劇俳優を配していて、日本語のセリフは別の俳優がしゃべるのだが、キーとなるパックのセリフが上すべりで、無味乾燥と見えるアクロバットだけではもたない。

 たいへん楽しませてくれる蜷川演出作品を観るたびに、演出の力とは何だろうと思い悩んできた。しかしこの作品についてはパワーも斬新さも不十分だった。かって使ったノウハウを手際よく組み合わせて膨らませていて、張子の部分が多いのかなと思えて蜷川演出の魅力たっぷりにはなっていない。
 それにしてもキャスティングの魅力のなさが集客にも影響しているようで、当日券は簡単にゲットできたし、けっこう空席が目立った。
 この作品は9月に福岡でも公演があるが、1本の芝居に1万円以上も出す気にはとてもなれず東京で観た。


 今回の上京では、e+(イープラス)でハーフプライスチケットがある「フルモンティ」を、福岡で見逃していたので観たかったが時間が取れなかった。新橋演舞場に進出の いのうえ歌舞伎「アテルイ」もやはり同じ。上京したときうまく燐光群やガジラや青年団の公演をやっていてほしいが、なかなかそうはいかない。それでもまあ充実していた。
 芝居のポスター原画がたくさん展示されているであろう「横尾忠則大回顧展」を見たかったが、これも時間がなくて断念。残念。


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