宝塚歌劇の舞台が楽しいのは何でだろうと思ってきたが、この舞台のダンスの綺麗さ、衣装の綺麗さなどを観ていて、それはあまり想像力が要らないためかなと思った。
いつも観ていてけっこう好きな小難しい芝居は、貧相な形しかないところを想像で補いながら作品の意図にたどり着こうとするのだが、観劇中は細心の注意を払いながら緊張していてそれはけっこう疲れる作業でもある。
それに比べて宝塚歌劇は圧倒的なボリュームがむこうから押しかけてきて、想像力を駆使する必要はあまりない。身をまかせておけばいい安心感がある。
多人数の出演者、華麗な衣装、迫力のダンス、みごとな装置・照明・音楽と、現実に目の前にあるもので十分満足できる。
今回の公演は、万葉ロマン「あかねさす紫の花」とレビュー・アラモード「カクテル」。
「あかねさす紫の花」は、中大兄皇子と大海人皇子の兄弟と額田女王との三角関係を大化の改新という激動の時代の流れのなかで描く。1時間40分ほどの舞台で、額田女王の回想でストーリーをテンポよく運ぶ。
「カクテル」はカクテルをテーマに展開するレビューで、バラエティに富んだ群舞がいい。
ボリュームがどのように満たされているのだろうか。
出演者の数は言うに及ばないが、出演者がこなす役の数の多さとそのための衣装替えの多さにはびっくりする。回り舞台などをうまく使った場面転換の速さはどうだ。盛り上がった気持ちに水を差さない工夫がされている。
オーソドックスで変な突っ込みなどしないが、何もかもわかってしまう面白くなさを避けるために、額田女王の気持ちの割り切れなさを残すことなどで余韻を出す。三角関係を表すダンスでは、二人の兄弟皇子の股下に仰向けの額田女王を置くというドキッとしてしまうような振付もある。
それらの工夫も含めてのボリュームなのだ。
朝10時半に行ったら、昼の部の立見はすでに売り切れていて夜の部の立見をやっとゲット。手すりに寄りかかれない席でやや疲れた。