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《2002.8月−17》

「原爆」をとおして描く☆生活のいとおしさ
【はだしのゲン (木山事務所)】

原作:中沢啓治 脚本・演出:木島始 作曲:林はじめ
30日(金) 18:35〜20:15 ももちパレス 3100円


 観たい観たい と思っていてやっと観られた「はだしのゲン」は、練り上げられた完成度の高いミュージカルで楽しめた。原作漫画の持ち味をうまく引き出していて期待に違わなかった。

 「家族の愛」がテーマだ。
 反戦の思いを世間に隠さない父のもと、親切な朝鮮人たちにも助けられながら暮らしていたゲン一家は、原爆で父と姉と弟を失い母とふたりが生き残る。
 母は被爆直後に女の子を出産する。また、死んだ弟によく似た浮浪児もいっしょに暮らすことになる。そして、ゲンたちふたりの元気がまわりの人たちも変えていく。

 全体の4割が原爆投下前の話で、戦時下の庶民の生活が描かれる。紗幕にスライドを使って戦況を手際よく表現していく。
 父が反戦主義者のため家族はいじめられるが、それを強制連行されてきた朝鮮人が助ける。このあたりの、時代にとっぷりと浸かりこんだごく一般の家族と違うところが、味付けの範囲を超えて「臭さ」が残る。それがこの作品の持ち味でもあるが。

 原作者とおぼしき案内役によって話が進められる。案内役以外の俳優は9人で、ゲン役以外はいくつもの役とマイムシーンを演じる。マイムは、麦畑のシーンや鯉を捕まえるシーンで効果的に使われていた。
 ゲンと弟と弟によく似た浮浪児は女優が演じるが、やっぱり女らしさは消せない。今の子役がゲンを演じることは無理なのだろうか。
 装置はほとんどなく、原爆のシーンも照明とスモークと音響で表現する。テンポが実にいい。
 歌は、歌詞の印象は強いが、曲はオーソドックス過ぎてやや古くさい。

 原爆で失われた生へのいとおしさを家族への愛をとおして、原爆がなかったら成就できたであろう幸せな生活を強く感じさせてくれるところまで行っている。そのようにかけがえのない命を奪ってしまった原爆投下が「虐殺」であったことをあらためてはっきりとわからせてくれる。

 原作である漫画「はだしのゲン」は、1972年から発表されはじめて1977年に全5巻が完結した。映画化やアニメ化されたり絵本にもなっている。
 このミュージカルは1996年に初演され、上演のたびに進化するミュージカルだといわれた。1999年1月にはニューヨーク公演を果たし、ニューヨークタイムズ紙で絶賛されている。
 福岡市民劇場8月例会の4日目に観た。福岡での上演は9月5日まで続く。


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