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《2002.8月−18》

わからせること ≠ 楽しませること
【コピーガード (えのき岳第08遊撃小隊)】

作・演出:榎本史郎
31日(土) 15:35〜16:35 シアターポケット 600円


 榎本史郎らしい発想の面白さが芝居の面白さにまで至っていないという作品だ。せっかくの発想を生かすアイディアと表現力不足で、短い芝居なのに眠たかった。

 人の記憶を入れ替えて人格まで変えてしまうという発想はよくある。榎本はそこからさらに一歩踏み込んで、「黒い羽根の天使」では脳がないはずの人間が動き出すのが面白かった。
 この作品では、人の記憶をFD化してパソコン並に簡単に入れ替えるということで悪事をたくらむ者に対して、探偵MGとしんやには「コピーガード」されていて入替できないという一歩進めた発想は面白い。

 しかしその発想が全然ふくらまされておらずうわすべりで、演っている方だけ気持ちよくなっているというレベルだ。内輪ネタにゲラゲラ笑っている一部の観客を横目にいっこうに乗れないのは、私の感性の方が作品に着いていっていないのかなとも思ったが、そうではなくて舞台づくりの姿勢が中途半端なためだと考えるのが正当のようだ。
 いくら新人公演とはいえ、いままでの榎本の作・演出作品に比べて甘ったれていて後退のし過ぎではないだろうか。

 作る側は繰り返していてわかりきったことと思っても、観る側は一回きりだ。だからポイントとなることはやはりきちんと表現されている必要がある。その上で楽しませてくれねばならない。そのためには当然に、台本にも演出にも演技にも工夫が要る。
 台本はせっかくの発想のふくらませかたが全く足りない。状況の変転がうわすべりできちんと書き込まれていないために、変転することの印象が非常に弱くなってしまった。例えば、しんやが「コピーガード」であることがMGが仕組んだことであるという、これまた面白い発想も、もう一歩突っ込んで書き込まれていないためにうまく生かされていない。
 人物が単純すぎる上に、演出も人物の個性を表現できていない。俳優の高い演技が望めないのだからここはやむを得ず、役柄の個性を俳優の個性にあわせて強調するなどの工夫があってもいい。
 結局、ストーリーをなぞっただけになってしまった。観ているときはかろうじてストーリーはわかるが、とても楽しめるところまではいっていない。

 この公演は新人入隊公演と銘打たれているが、劇団員はほとんど入れ替わっていまは新人ばかりという。榎本代表以外は80年代生まれという若さだからといって、稚拙で粗雑で突っ込まない演技でいいはずがない。榎本戯曲を表現するには演技の発想をもっと豊かにする必要があろう。
 それにしても卒業した隊員はどこに行ってしまったんだろう。少し気になる。


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