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《2002.9月−1》

甘ったるさから☆脱却だ
【捏造 大塩革命伝 (坂口(仮))】

作:美浜源八 演出:上村陽介
6日(金) 19:10〜20:40 ぽんプラザホール 800円


 脚本の発想と構成の面白さにけっこうメリハリある演技が加わって楽しめた。装置や照明のセンスもなかなかいい。

 大塩平八郎の乱を題材に勝手に膨らませたという作品だ。倒幕革命に失敗し再開を約した仲間4人とそれを追う幕府役人。かれらの変転と13年後の再会が引き起こす大塩革命を描く。
 倒幕革命の首領太郎は追っ手に囲まれたなかで仲間の焔、平八郎、弥生を逃がす。その後平八郎は幕府の役人となり塾を開いて弥生と暮らす。が実は、倒幕革命の仲間を幕府与力十三郎に売ったのが平八郎だった。
 その与力の手先かおりや平八郎の養子格之介や弟子たちなどもあわせてた愛憎関係が入れ混じり変遷していく。
 しかも全体の動きを金などでコントロールしているのはそれを作品のネタにしようという近松門左衛門で、弟子帰生を手先に使っている。

 はじめの倒幕革命のシーンは、安保闘争の学生たちの革命の開放感と権力に包囲された圧迫感をうまく出していて、「よくぞ」という印象だ。
 どこまでも直情な太郎に対して、鬱屈した平八郎を配した対照の妙もある。そのほかの人物にもそれぞれに思いが渦巻くところをしつこいくらい突っ込んで描く。人物の関係も入り組んでいてちょっと重すぎるかなと感じるくらいだ。

 演出や舞台装置もけっこう凝っている。
 13年前の倒幕革命を裏切る平八郎と、いま塾生たちに裏切られる平八郎を同じ平面で入れ混じりながら演じさせる。そのようなうまい構成のシーンがいくつも工夫されていて飽きさせない。
 舞台装置は中央に正方形の大小の台を重ねる。上手と下手には大きな障子窓があり、障子に映る色で場面の印象を作り出すというアイディアは効果抜群でいい。

 俳優の演技もずいぶんよくなった。
 テンポのいい演技でテンポのいい舞台を作っているが、じっくりと思いを込めた説得力のある演技もできていて、まあメリハリがついている。個性的で生きはいいが、やや荒削りなのが少し気にはなる。

 舞台は大詰め、大阪の天神祭りの夜。焼討ちされる平八郎の屋敷に主な人物がそろう。太郎と平八郎が対決し人間の本性が現れた現実的なドラマに仕立ててきた近松から、かれらの理想に触発された帰生がドラマ進行の主導権を奪う。
 みんな倒幕革命の興奮を思い出す。それが火事の興奮と祭りの興奮とあいまって民衆に伝播していく。大塩革命だ。

 いまの若い人には閉塞感などないのかと思っていたが、この作品の開放への強い思いをみるとそうとばかりもいえないのがわかる。そういう面では現代の若者の気持ちをよく捉えているのかも知れない。
 こう書いてくると暗い芝居のようだがそうではなく、ほぼ満席の観客はよく笑っていた。私も大いに笑った。


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