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《2002.9月−2》

いいところだけ☆つまみ食いの気分
【E−1グランプリ 予選オーディション (E−1グランプリ実行委員会)】

構成:E−1グランプリ実行委員会
7日(土) 14:30〜16:50 大野城まどかぴあ・小ホール


 E−1グランプリの予選オーディションは1劇団7分という上演時間で、密度が高くいいところだけをつまみ食いしているという気分で大いに楽しめた。
 このオーディションは一般公開されておらず、審査員として参加させてもらったが、各劇団は準備も十分で一般公開してもいいレベルだと思った。

 事務局の責任者が講評のなかで話されたE−1グランプリの主旨を書いておこう。
 『お笑いや音楽はジョイントライブからスタートしてお客を増やしていくのに、演劇は初めからワンマン(1劇団)ライブで来る観客も同じで広がらないというのが現状だ。 また演劇は売れていくのに時間がかかる。
 東京ではプロダクションが劇団ごと所属にして売っていこうという形になってきている。そのような形に対応するための有望劇団の発掘もE−1グランプリの目的のひとつではあるが、必ずしも結果にこだわらず参加劇団が交流できればそれでいい、とも考えている。
 上演時間15分あるいは20分は演劇の新しいジャンルだと思っている。オムニバス形式の演劇に対応するスケッチあるいはコントとしてのジャンルで、たくさん舞台に立ってもらうために劇団が連携したジョイントライブを定期的にやっていくようになればいい。そのきっかけにE−1グランプリがなればいいと考えている。
 札幌の劇団イナダ組は1公演10,000人の観客を集める。劇団も関係者も地方スターになっている。東京に出るだけが能ではない。福岡でしか見られないものが生まれてくれればいい。きょうはその可能性を感じた。九州は濃い!』

 開演の1時間前に会場に行ったら、いたるところで練習中とか装置の準備中で異常な活気にあふれていた。ライブ開始の時間まで待ったが、スタッフは人数が少なく大変のようだった。
 それぞれの劇団は上演後すぐにロビーで写真撮影で、並行しながら次の劇団の準備が行われる。上演時間はほとんどの劇団が7分ぎりぎり使っていた。

 各劇団の感想を上演順に簡単にまとめる。

【劇囚芝居屋】(佐賀) 14:35〜14:42
 父の仇と狙う男を見つけた女は、仇の男と等身大の操り人形を戦わせる。女は人形をもうひとつ増やして戦うが負ける。が、実は父を殺したのはその男ではなかった・・・。
 代理で人形に戦わせるアイデアが面白い。衣裳がかなり本格的で殺陣も見せる。人形があまりに人間らしいのではじめちょっと戸惑った。男性2名、女性3名の出演。

【KnockOutシアター】(久留米) 14:44〜14:51
 女子高校生二人の恋についての会話。男が演じる女子高校生が、男にデートに呼び出されて垣根に隠れていたという、勘違いの話。
 テンポのいい会話で笑った。お笑いのコントに近い感じだ。男性1名、女性1名の出演。

【ラストフォーライフ】(福岡) 15:05〜15:12
 男と別れたことを知られたくない姉とその弟、別れたがっているのペアの4人が登場。互いに相手に知られず、姉とペアの男、弟とペアの女が出会い系サイトで会う約束をする、しかも同じ場所で。
 内心をそのまましゃべるという影の声が面白い。意外と違和感がなく軽くやっているのがいい。出と引っ込みもスマート。出会い系サイトで100ポイント無料などというのをわざわざ説明しているのがやや冗長。

【羽犬塚歌劇団】(筑後) 15:17〜15:24
 「森のクマさん」の宝塚風ミュージカル。上流のお嬢さんが都会に増えている革新派・ゲキダンの首領に魅かれるという話。
 音楽にのせて楽しい。宝塚くささ、意図的にやったもどきが笑える。女性8名の出演。

【DESERT ROSE(砂漠の薔薇)】(福岡) 15:26〜15:33
 男女2組。1組は触れてくれない不安、男が差し出すバラ−止まった時間の象徴。もう1組はりんごを剥く男に毒づく女−うつろい行くものの象徴。だが2組とも自由になるために女を殺す。
 エキセントリックな演技と無彩色の衣裳で見せる。かっこよさと若干の気持ち悪さと寓意に満ちていて面白いが、やや重い。

【きららBチーム】(熊本) 15:36〜15:44
 「トリと王様」という題で、主役を演じるために常にフィクションを求める王様と、疑う力と想像力を言ってアドバイスするトリとの話。結局、大臣に裏切られた王は隣国から攻め込んだ軍勢とのイクサで最後の悲劇を演じる。
 いっぱい詰まった脚本を生き生きとした演技でテンポよく進める。楽しめた。男4名、女2名の出演。

【遊劇舞隊】(福岡) 15:48〜15:55
 老人ひとりで住む田舎の家にやってくる息子夫婦と娘。「ごみ処理場反対」の立て札。妖怪が出るといわれて川に来た娘の前に河童が現れる。
 強烈なみどり色の河童にびっくり。構成は長い芝居の一部か、まとまりはいまひとつ。

【きららAチーム】(熊本) 15:56〜16:04
 「恋島恋太郎」は、恋太郎先生による恋のお稽古の日舞レビュー。オニムラルミの悩みを宗・恋太郎が癒す。
 個人技のレベル高く超安定。肥後弁たっぷり踊りたっぷりで満足。男1名、女6名の出演。

【ルースマン】(福岡) 16:10〜16:17
 死んで墓場で腐りかけた男が甦るホラー。包帯男に白塗り男ふたり、白猫宅配便の4人の男女が入れ混じる。
 甦る男の腐りかけた肉が不気味。白猫のマークの猫の目も不気味。

 劇団による上演が終わったあと各審査員から次のような講評があった。
 ・7分でうまく見せようとしているのがいい。
 ・続きを見たいと思わせるのがよかった。
 ・観客の反応もよかった。
 ・楽しくてレベルが高い。
 ・次を期待している。初見の人を引き込めるようにやってほしい。

 そのあと、各劇団相互の意見交換があり、質問があったどのように活動をやっているかについて各劇団から、構成員や稽古の状況はむろん劇団費や公演費用の話まで含めた報告がされた。
 いちおう全部の予定が終わってもみんなそれぞれ話し込んでいた。もっと情報交換の場がほしいと各劇団の人が思われているのではないかと思った。

 私としては、初めて観る劇団が多かった。
 福岡の主力と目される劇団の多くが参加していないのは何とも不満だ。募集期間が短く主旨が徹底しなかったことや劇団固有の事情はいろいろあろうが、私には「逃げ」としか思えない。交流や後進育成の意味からももっと参加してほしかった。

 E−1グランプリの予選オーディションを見せてもらいたいと事務局にお願いしていたら、審査員を依頼されてしまった。
 観た直後で私はいっこうに整理もついていないのに、他の審査員の方の突っ込んだ意見を言われるその鋭さにびっくりした。脚本・演出はもちろん、ひとりひとりの俳優の演技についても実によく見ている。
 いつもひとりで黙々と考え込むだけの私にとって、観たものについて話すことはこんなにも楽しいことなのか、と思った。


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