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《2002.9月−6》

工夫が◇◆なさ過ぎる
【ノボル/ボクサー (T.H.E.)】

原作:和田徹 演出:中村ジョー/作:高橋いさを 演出:中村ジョー
14日(土) 16:30〜18:05 アトリエ戯座 1500円


 この公演は劇団T.H.E.の第3回公演で既存戯曲の2本立てである。
 「ノボル」が面白かったが、「ボクサー」はどうしようもない舞台だった。

 「ノボル」は30分ほどの一人芝居で、弟分のヤクザの17回忌に兄貴分のヤクザが殺された弟分とのことを殺された場所で回想する、という話。状況説明が多い前半はかなり退屈だが、真実が露わになる後半は俳優も乗ってグイグイと引っぱっていく。
 ノボルの子ヨウコは実はこの兄貴分の子であったことが露呈するという面白い戯曲に、正面から何の手練もなしに取り組んで、やや古くさいが勢いで見せる。演じた中谷良之はけっこう年配の俳優だが後半はまって、兄貴分のヤクザの甘ったれた生き方をみごと表現していてなかなかの迫力だった。

 「ボクサー」は、隣室のボクサーの幻影を勝手にふくらませて集団ヒステリーになっていくという高橋いさをの初期の戯曲だが、この公演はこんな面白い戯曲をなぜもっとちゃんと上演できないのかというイライラばかりが募った。演出も演技も工夫がなさ過ぎる。
 演出は、会話を鮮烈に際立たせて集団ヒステリーが高じていく状況をくっきりと描いてほしかったが、そうはなっていない。入れ混じるセリフの整理さえも十分にはできていない。
 演技もまったく柔軟さに欠け、やたら力を入れてしゃべるだけだ。テンポよくみずみずしいセリフがベタベタ状態で、彼らが追い込まれていく状況が全然伝わらない。人物の個性も見えない。

 既存戯曲を上演する劇団はそれほど多くはないが、オリジナルでないのにこんな習作レベルじゃしかたない。戯曲の読み取りをもっときちんとするべきだ。さらにもっとアイディアを盛り込むべきだ
 演出は戯曲に対して徹底的に受身で、しごとは立ち位置とか照明位置のコントロールだけとしか考えていないようだ。アイディアを引っぱりだして詰め込んで戯曲を際立たせるのが演出のしごとではないだろうか。
 演技も演出に対して徹底的に受身で、演出の言うとおり動くことだけしか意識していないように見える。おまけにその演技の質は、観客に向かって開かれない自己完結型の古くさい演技を理想としているように見える。

 この公演はアトリエ戯座で4ステージで、ラストのステージを観た。満席だった。


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