福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2002.9月−8》

ぶっ飛んでいて不可思議な◎面白さ
【BIG BIZ 〜宮原木材危機一髪〜 (AGAPE store)】

作:後藤ひろひと 演出:G2
15日(日) 14:05〜16:05 西鉄ホール 4500円


 とても楽しめた。硬質なのにフレキシブルで、ぶっ飛んでいて笑い転げるのにしっとりともしていて、幅の広い上質な舞台だ。

 松尾貴史の主演だとその個人技を見せる演芸的なものかと先入観を持ってしまいそうだが、この舞台は松尾だけを目立たせるのではなく、オーソドックスな芝居の中に松尾の芸を取り込んだという作りだ。
 開演前の携帯電話の電源Offの注意を「朝までナメてれば」風に岡本太郎や土井たか子などでやるのがいちばん松尾らしかった。舞台に立った松尾は軽くて切れのいい演技をする俳優だった。

 幽霊会社である宮原木材の管理人結城の友だちの健三が、電話に応答して受けてしまった注文が発端で、結城にとってはやりたくもないビジネスが展開する。大きな会社に見せるための多くの社員役を声色だけで演じ分けて、ビジネスはどんどん具体化していく。
 からんだ女性ハッカー皿袋によってハッキングで資金をゲット、仕入れをネットで行い、ビッグビジネスがわずか1日で成功してしまう。

 プロローグとエピローグの日の前日一日のできごとが本編で、2時間近く暗転なしのリアルタイムで繰りひろげられる。
 プロローグはしんみりとしたスタートで、倒産して閉める事務所に別れを告げているという雰囲気だ。
 本編は、終わってしまえばぶっ飛んだと思えるのだが、上演中はどちらかというと地道にきちんと積上げていく。これ見よがしに俳優の地を出したり、一般受けする話題でどっと盛り上げようとしたりはしない。

 10人もの声色で話をエスカレートさせる話が核となるが、外国帰りの画家、元看守の就職希望の男、盗聴魔じつは天才ハッカーの女をうまくからませる。ドタバタではあるが、人物の思いもていねいに描く。
 駆使しているテクニックは多彩だ。戯曲では、擬態や、間違い、なりかわり、変身などをうそ、てらい、テレ、ごまかし、脅しで強調しながら話を展開する。戯曲ではリアルであることあまりこだわらない。演出はそれらを膨らませるけれどうまく繋ぎとめて軽薄にはせず、戯曲と演技のギャップがユーモアを生む。
 盗聴のため目立たぬおばさんの扮装から超ミニのドレスへと大変身するハッカーの女性のあまりの色っぽさと落差にクラクラしてしまう。
 エピローグはプロローグと同じに始まり途中までは同じセリフだが、成功して1日で大ビルに移転していったことがわかり、ホッと安心して終わる。

 この公演は西鉄ホールで4ステージ。3ステージ目を観たが満席で階段座席だった。本多劇場などで通路に座る階段座席は慣れっこだが、福岡では初めてだ。尻が痛かった。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ