ほとんど何でもありと見える藤山直美の魅力に溢れた舞台だった。父・藤山寛美の当り狂言「はなの六兵衛」の女版だ。
何をやっても許されるという雰囲気は父親ゆずりだが、そのことは、作品をこれ以上膨らますことができないところまで膨らませ、見る者の心をつかみ楽しませる。
一里四方は何がどこにあるかにおいで嗅ぎ分けるというお六の出世噺だ。
父親の作った借金返しのために大和の吉野から江戸に出て、なくなっていた葵の紋所のついた旗を探し出して300石取りに出世する。
吉野のシーンと江戸までの道中のシーンが半分以上を占める。吉野の暮らしや東海道の道中そのものを楽しく見せる。
その前半は歌ったり踊ったりと動きが実にいい。後半は侠客・龍五郎や有馬の殿様との表情豊かなやりとりがいい。
長江健次の歌う「100%片思い」にのせてダイナミックに踊ったり、殿様の前で腰元の上に倒れてジタバタなど、おもしろそうなことなら何でもやるような幅広さだ。
寛美もそうだったが、直美も普通の俳優がやったらまったく白けてしまうような突込みやしぐさが、むしろグッと観客を惹きつけるというところが何とも不思議なのだ。例えば、有馬の殿様の白塗りを見て「温泉玉子!」でドッと笑いを取るのだが、それはタイミングや言い方のほかに、直美のキャラクタだからできるのではないかという気がする。そのキャラクタが何によっているのかはよくわからないけれど、表情やしぐさが寛美にあまりに似ていることを思うと天性のものかなという気もする。
多くの出演俳優、大掛かりな装置、華美な衣裳と、商業演劇らしい豪華さを楽しめる。大掛かりな装置にもかかわらず、あっという間の場面転換も見せる。
全国を巡演しているこの公演は福岡では4ステージ。私の観た回は福岡市民会館・大ホールは満席で立見も出ていた。
安い席を作ってくれているのがありがたい。