劇団Hole Brothers の新作はこの劇団らしくない素直さで、それなりには楽しめるけれど今までに比べてパンチ不足だ。大きな仕掛けでガツンというのも弱いし、グイグイと異様な気分に引っぱっていく力も弱い。らしくない作品で、今回はひと休みかなという印象だ。
人生のストレスを抱えこんだ真知子が、夢の世界で過去の自分、未来の自分と出会うという話だ。
夢で、無意識の世界から深層心理へと分け入って過去と未来がせめぎ合うのだが、結局過去も未来も否定して現状肯定で終わる。
前半はテンポよくて期待をもたせる。しかし、深層心理で深まったなと思っても何も発見されず、現状へのインパクトはない。
後半はベタベタの現状肯定に向けて、どっちかというと追及の手を緩めてしまった。
過去との対峙、未来との対峙が弱いために、結果としての現状肯定も際立たない。夢の中への旅が真知子に何か影響を与えたようには見えないのだ。凡百の作品でも主人公が変わるところまでは行くのだが。
それとも、そこに真知子の変化を求める私のほうが図式的なのだろうか。幸田戯曲に世間並みの素直さを求めるほうがおかしいのだろうか。ならば、分け入ってぶっ飛んで毒に至るという幸田らしさがほしい。こんなレベルで満足するわけにはいかない。
俳優はいい。ダイナミックな変化とていねいな表現をこなしている。
装置もいい。ダンボールを貼り付けた居間の床や半透明の樹脂のドア、無機的なシルバーの背景が不安定な夢の世界を象徴する。
公演はあすまで3ステージで、きょうの初日は7割ほどの入りだった。