福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ


《2002.10月−3》

全然怖くない◆おとぎ噺
【やっぱり怖いおとぎ噺 (福岡市劇団協議会合同公演)】

作・演出:石川蛍
5日(土) 14:00〜15:40 少年科学文化会館 2500円


 なぜかしっくりこないし引き込まれない。脚本、演出ともにアイディア不足なのを何とか格好だけつけようという公演に見えた。
 おとぎ噺の「舌切り雀」、「瘤取り爺さん」を、太宰治の「お伽草紙」のアイディアをベースに、いま流行りの「やっぱり怖い」風に膨らませた。「ほんとうは」というところを膨らませてそれぞれ40分〜50分の舞台にしているが、その膨らませかたの切れ味が悪くて、太宰のウィットは消えてしまい、狙った「やっぱり怖い」にもはるかに遠い。

 「舌切り雀」は、舌を切られたのは作家に弟子入り志望の若い女性だった、という話。娘の家から作家がもらった小さなつづらには金貨だが、妻がもらった大きなつづらには書物が入っていて、作家はその大きなつづらに押しつぶされて死んでしまう。残った妻だけあと悠々と生きる。
 荒唐無稽はかまわないがなんとも中途半端で、納得するところまでもっていくパワーがない。夫を軽んじている妻が作家志望の女性の舌を切るのは、嫉妬からではなく自己顕示のためとしか見えないし、作家が死んだのは妻の殺意のためではなく事故としか見えずと、怖くも何もない。よけいなセリフはいっぱいあるのに切り結ぶセリフが弱く、作家と妻の会話などで二人の気持ちを際立たせることがない。取ってつけたような結末になった。

 「瘤取り爺さん」は、たたらの人たちから踊りを教えてくれることを懇願されて、戻ってくる担保のために瘤を取られる。瘤がなくなった男は妻を捨て代官の第五夫人の若い女と駆け落ちしてしまう。
 顔に瘤があるその代官、たたらの人たちのところに乗り込み瘤を取らせようとするが彼らを怒らせ、却って瘤がもうひとつ増えてしまう。しかしその代官は、瘤がなくなった男の妻に拾われて仲よく暮らす。
 これもいっこうに怖くない。結局ふたつとも、「おとぎ噺」が「民話」に置き換わったに過ぎず、「怖い」現実が露呈することはない。掘り起こしが浅いのだ。

 演技はベテランとそうでない俳優の落差が大きい。ベテラン男性俳優のパントマイム的な軽快な動きがいい。女優はやや入れ込みすぎの重い演技だ。

 福岡市劇団協議会合同公演と銘打たれたこの公演は、現代劇場、生活舞台、テアトルハカタ、夢工房の4劇団の合同公演だが、夢工房の公演に他の劇団が参加しているというのが実態に近い。できあがったものは4劇団の古臭さが徹底的に出てしまった。
 それにしても、カーテンコールで作・演出がしゃしゃり出てわざわざ盛り下げるという感覚はわからない。半分強の入りだった。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ 前ページへ 次ページへ