*** 推 敲 中 ***
どぎついほどのシチュエーションで迫る水谷龍二作品にしてはサラリとした舞台だ。散りばめられたエスプリでそれなりには楽しめるが、物足りなさも残る。
南三陸の理髪店が舞台。初老の店主が若い女性従業員を指導している。そこに現れた一人の男。
はじめの三分の一は日常生活の描写が淡々と続く。人物のちょっとした表情やしぐさで人間関係などの状況をきっちりと描いていくのが楽しめる。女性への淡い思いから、店主がこの状況が続くことを望んでいるのがわかる。
現れた男は何事もないように一度出ていくが、裏口から再び登場。ここから人間関係が具体的になってくる。
女はやくざの女房で失踪して2ヶ月、現れた男は女を探しにきた探偵だった。その探偵、午後8時になると女(オカマ)になってしまうという変な体質で、恋愛中の若い男から電話がかかってくる。
水谷龍二にしてはシチュエーションの幅がせまく、人物の変転の幅も狭くてストーリーもぶっ飛ばず、喰い足りないという印象を残す。
篠井英介は2キャラクタのみ。緒方拳はわずかに想像のシーンで、女の富樫真はわずかに酒が入って人格が変わったり開き直ったシーンで若干の幅を示すだけだ。描かれた人物の幅の狭さからそれぞれの思いがクロスしない。仕掛けが弱いというか、縮こまってしまって引っかかってこない。だからどうも拍子抜けで、結末の印象も弱いのだ。
俳優の存在感からくる雰囲気は楽しめるが、グングン引きこまれるという面白さはない。そこが不満だった。
この舞台は福岡では1ステージのみ。満席だった。