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《2002.11月−14》

インパクトある舞台なのに○無惨なまでの観客の少なさはなぜ?
【オレンジ (自由派DNA)】

作・演出:梶原俊治
27日(水) 20:00〜21:50 ぽんプラザホール 2公演通し2800円


 よくできた脚本に、切れ味のいい演出と演技で、大変面白く楽しめる舞台になっていた。少ない観客ながら万雷の拍手だ。
 初めて観る関西の劇団・自由派DNAの舞台は、激しく盛り上がるところとじっくりと見せるところのメリハリも十分で、躍動感にあふれていた。すばらしい舞台なのに何で観客が約20人しかいないのか、理解に苦しむ。

 オレンジ隊という、生きる力を失った人の精神的な死を「親切」により救うというレスキュー隊があって、その「親切」がエスカレートして「親切」を阻害するものを悪魔として排除しようとするところまで行ってしまう。オレンジ隊は、監察医カツミが助けた患者を死んだことにして、その患者たちに生きがいを与えるために作ったのだが、カツミの目的から逸脱したことでカツミは隊員を殺す。それに、オレエンジンという希望を与える正十二面体でカツミと繋がる刑事・宮本課長とその部下・島田などがからむ。
 この作品は芝居屋コロシアム2002の最初の上演作品で、ことしの芝居屋コロシアムは、タイトルに色を使うこと、その色の正十二面体を使うこと、幕開きの形(立ち位置とセリフ)が決められていて、それに沿って作られている。

 脚本は、テーマの面白さもさることながら、その展開のための掘り下げがていねいになされている。オレンジ隊の「親切」の変質について、突っ込んだ状況を作って、その中で表現していく手法はうまい。
 例えば、階段から落ちつつある人に恥をかかせないために先回りして一本背負いをかけ、恥を不可解さで帳消しにするという、親切を逸脱した親切を語ることで、オレンジ隊の親切の変質をえぐり出す。そこから、親切をするために階段の上の人の背中をつつくことも肯定される、とさらに変質していく。
 そしてついには、「愛する人が憎むもの」=「どうしても愛せないもの」⇒「排除」という、「親切」とはかけ離れたところにオレンジ隊が行ってしまう。そのあたり、幾度か語られることで理解できる。
 ただ、オレンジ隊が言うところのその「進化した親切」(=悪魔の排除)の対象がなぜ島田刑事になるのかはよくわからなかった。
 以上のような構成のうまさに加えて、メインのストーリーに遊びも含んだ多彩なエピソードで緩急をつける。セリフの言葉もみずみずしくて魅力的だ。
 演出は、そのような脚本の特徴をさらに強調する。スピード感にあふれていていい。

 役者は個性的で、みなうまくはまっている。医者は医者らしく刑事は刑事らしくきちんと演じられる。しかも、何気ない表面的な表現から、個々人の本質が顕れるきびしい表現までをちゃんと演じる幅広さを持っている。
 この舞台を観て、ことし8月の「レストア」福岡バージョンにおける福岡の俳優の演技についての私の考察が間違っていなかったことを確認した。この舞台を福岡の俳優が演じている姿を想像してみると、競争に打ち勝って選ばれたわけでもなくちゃんと訓練もされていない福岡の俳優の演技の稚拙さいびつさが見えてくる。ウソだと思うなら、この舞台の俳優の演技をちゃんと見てみてほしいと思う。

 プロデューサーによると広報ミスということだが、述べてきたような内容なのに無惨なまでの観客の少なさはどうしたことだろう。
 4回目の福岡公演というから固定ファンがいないことはなかろう。SPECIAL THANKSの対象だけでもけっこうな人数なのに、演劇関係者が少ないのもわからない。あす、あさってと増えるのかもしれないが、きょうを見る限り演劇ファンのひとりとしては情けなさに泣きたくなってしまった。


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